自然に親しみ、観て触れて学びながら、自然を守ろう

「自然と私~日本の農業と生物は共存社会~」

総会記念講演 「自然と私~日本の農業と生物は共存社会~」

秋山 浩三氏:水土里みどりネットひろしま・広島県土地改良事業団体連合会 地域支援課専門監

報告 土岡 健太

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 氏と初めてお会いしたのは、2010年12月、豊栄町乃美の土地改良区の事務所で開かれた西原川河川改修の説明会であった。乃美エコクラブの高沖 弘氏からこの説明会の参加のお誘いをうけ、私達自然研有志数名が参加してお話を聞いた。

 会場は地権者をはじめ豊栄町乃美土地改良区、乃美エコクラブ、シバザクラの里乃美、施工業者やほか関係者が一堂に会しての河川改修工事の説明会であった。

 秋山さんによる説明の主なものは、西原川には多くの貴重な動植物が生息しているので、なかでも守るべき動植物は何か、それらをいつ、どのようにして保護するかなど動植物の移動・移植の具体的な行程表と、工事後に動植物を再度元に戻しても生きていける環境に配慮した工法など工事全般の説明であった。

 その後の私達の動植物の移動・移植協力活動は前会報(42号P10)に報告したとおりである。

 秋山さんを含む広島県土地改良事業団体連合会と東広島市は平成19(2007)年度に、この地域の周辺も含めた地域の生物の分布調査を実施し、詳細な報告書を提出されている(文末*印。さらに*附録としてその第1Pを転載する)。設計者としての考えを関係者全員にしっかり理解していただくための説明会であった。西原川の生物の情報を参加者全員に共有してほしいという姿勢を知り、私達は一安心したことを覚えている。
 
 その後、秋山さんと何度かお話をする機会に恵まれ、「自然にどのような思いをお持ちなのか、具体的にどのような仕事をされておられるのかなど、普段感じられていることで良いですから、自然研でお話を」と、講演をお願いした次第である。

 総会講演では、パワーポイントで編集された全66ページ分の資料をプリントされ説明された。(この模様は船越会員がビデオ撮影、DVD編集しているので閲覧希望者は連絡していただきたい。)

 自己紹介の後、農村土地改良事業団体連合会は農林水産省の予算の中で、広島県の農家のほとんどに対し、地域の自然環境との調和に配慮しながら、田んぼの区画整理や、道路・小河川・小水路の改修を地元と調整しながら事業を進められると、秋山さんの仕事の概略を説明された。

 本題の「自然と私」についてお話された内容は以下の4項目についてであった。

1.私が自然を実感するまで
2.日本の自然と農業
3.農業生産基盤整備と自然再生
4.農業による撹乱と生物共生環境

 いずれの内容もざっくばらんに平易に解説されたので、皆さんになるべく多く紹介したいのだが、残念ながら、ここでは概略にとどめたい。

 秋山さんは帝釈峡近くの農家に生まれ、小学校時代は片道4kmの小川や田んぼなどを合わせた三尺道(幅約1m)を通っておられた。

 通学途中、春夏秋冬と変化していく季節に合わせて、春はコバノミツバツツジ,ヤマブキ,ヤマザクラなど,初夏になればササユリ,イタドリなど,夏はクマイチゴ,ナガバモミジイチゴ,秋は栗,アケビ,冬はフユイチゴなど食すということも楽しんでおられた。

 カエルやトンボなど小さな命とともに様々な楽しみを見つけながら、雨の日も雪の日も自然の中で、自然とともに大きくなられたそうだ。これらの原体験はまさに秋山さんを作り上げている大切な要素、根幹と言っても良さそうだ。

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 弥生時代、ヒトの稲作開始とともに、生物もその環境変化に対応して現在までその命をつないできた歴史は、いまさらながら、納得できる。

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 氏はいままで、県内で以下のとおり多くの仕事をされてこられた。その中で、三原市のヒョウモンモドキの保護事例と世羅町川尻の実施事例をあげて事業のハード面、ソフト面を説明された。

広島県内における農業生産基盤整備と自然再生を行った地区
・三原市本郷町小坂(ホタルと魚類ネットワークの確保「魚道」)
・三原市久井町三橋谷(ヒョウモンモドキの保護のため生息地確保)
・世羅町川尻(幹線排水路における自然再生「全断面魚道等」)
・三原市久井町泉(メダカ生息地確保と両生類移動這い上がり施設)
・世羅町黒川明神(動物道の設置,埋土種子による法面緑化,景観維持)
・庄原市高野町南(幹線排水路における魚類ネットワークの確保と生息地創出,両生類移動阻害防止)
・庄原市西城町法京寺(両生類移動阻害防止)

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 氏の結論として
・日本では,ほったらかしの自然はありえない。
・生物は,短い時間において、めまぐるしく共生しようと努力している。
 今後の課題として
・現在県内においても,限界集落が増えつつある。また,高齢化による農地の維持能力の低下により,単一的な生物空間となりつつある。言い換えれば,生物の多様性が低下し,大型哺乳類が増え,植物も単一的になり,生態系のバランスが崩れていくと考えられる。

・人が里山、里地、農地の保全をするということと動植物が豊かに生育・生息できるということは互いに強い関連性を持っている。
以上の様に結論された。

講演終了後の質疑応答も活発なものがあった。一例を挙げる。

問い:施工業者が生物を保護するという趣旨を納得するまで、どれくらいの時間がかかったか?それは予算の中か?

秋山さん:3か月間ぐらい。ボランティアです。


問い:工事終了後のモニタリングの期間は?

秋山さん:約5年間です。

など、多くが大変参考になるお話や事例であった。

 我会は「東広島の自然誌」(Ⅰ)(2008 井鷺)などで、東広島市に多くの絶滅危惧植物が生育していることを報告してきた。それらの宝庫と言っても過言ではないこの市の自然環境は、今後の急速な都市化によって決して安心とは言えない状況にあろう。

 「かつて生育していた」という過去形にしないため、会の存在意義、各会員に課せられた責務は大きいと考える。絶滅危惧種に指定されているから行政が保護すべきだなど他人まかせの安直な考えは捨てて、今一度、「自分に何ができるか、何をするか」を考えてほしいと思う。そうした「己」の視点に立って現状を見つめることができれば、今回の秋山さんの講演は大いに役立つことになると思う。

 なお、氏が主宰されておられる親子の実体験を目的とした「田んぼの楽校」の活動なども記したいのだが、後日に譲りたい。

 また、今回の西原川の移動・移植した生物リストや福永会員がまとめていたレポートをP29,30に掲載しているので参考にしてほしい。

 余談だが、後日高沖 弘さんから乃美シバザクラ祭りのご案内があり、4月24日、道野会員と参加した。

東広島の自然(2012.3)No.43 掲載

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