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ベニイトトンボ

行事報告

ベニイトトンボ

会員 船越 雄治

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1.ベニイトトンボとは
 イトトンボ科に属し、体長は約3cm。オスは朱赤色、メスは橙褐色。中四国地方に生息するイトトンボの中で、赤いのは本種1種だけ。環境省のレッド・データブック(RDB)では絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されていますが、広島県版RDBにはなんの指定もありません。もともと広島県内では生息が確認されていなかったし、2003年版をつくる時にもデータが集まらなかったために判定が保留されたためと思われます。
 赤い体色ゆえトンボマニアにとっては憧れの的でもありました。熱心なマニアが4~5年前に瀬戸内沿岸部で発見してから、同じく沿岸部で散発的に発見されるようになりました。私の友人も竹原市忠海町で発見し、新聞で紹介されました。

2.私とトンボ
 田舎の一軒家で育った私には、いっしょに遊んでくれる友達は近所にいませんでした。従って遊び相手はおのずと家のまわりにいる生き物となりました。なかでも羽が生えているもの(トンボや鳥)に憧れ追いかけるようになりました。
 しかし、それも小学生までで、以後、定年退職するまでは生き物とは無縁の生活が続きました。退職して時間的、精神的にゆとりが生まれると、西条盆地の自然が子どもの頃の記憶を呼びさましました。かつて手に握りしめていた昆虫網は老人となった今、デジカメに変わっています。夏がくると家にいても落ちつかなくていつの間にか西条盆地を駆けめぐっています。約10年間で一般的なトンボの写真は撮り終えると、今までは目をくれなかったイトトンボの写真にも挑戦を始めました。
 一般的なトンボは体長5~6cm、イトトンボは約2~3cm。今まで使ってきたデジカメではイトトンボを画面一杯に撮影することはできません。止むを得ずカメラとレンズを新調しました。イトトンボはどれも青や緑の体色で体形も似ているため種の区別など出来なかったのですが、新しいカメラとレンズの組み合わせで撮れた写真を見ると、繊細な紋様があることに気付きました。帰宅すると図鑑とにらめっこで「ああだろうか?こうだろうか?」と悩んでいるうち、少しずつ名前が解ってきました。

3.ベニイトトンボとの出会い
 イトトンボの撮影を始めて2年目の夏、平成24年8月5日のことです。いつものように山の中の小さなため池の縁に立った時のことです。足元からオレンジ色をした爪楊枝のようなものが飛び立ち、ヨタヨタと飛行してヤブの中に逃げ込みました。逃げ込んだ暗いヤブに目をこらすと、図鑑でしか見たことがなかった幻のベニイトトンボでした。何はさておき写真だけは撮っておかねばと思い、慌てふためきながら3コマだけ撮りました。私の慌てるようすに危険を感じたのかベニイトトンボは、更にヤブの奥に移動し、見えなくなりました。
 帰宅して写真を拡大してみると手ブレとピンボケで全く使いものになりません。あきらめ切れず、翌日も現地に出かけて5時間待ったのに姿を現すことは有りませんでした。3日目、3時間待つと、やっと現われ、写真も撮らしてくれました。
 ベニイトトンボは沿岸部に生息していて、山間部にはいないと思っていただけに、今回の発見は感動的でした。この日以降は、ため池の縁に立つと、まずベニイトトンボの存在を確認することに決めました。それから1週間後、別の池でベニイトトンボを確認しました。どちらの池も似たような環境にあります。最初の池は河内町内に、2例目の池は八本松町内にあります。今年の夏はこの2つの池での発見に終わりましたが、来年もベニイトトンボの調査は続行するつもりです。しかし気がかりな点があります。両方の池とも個体数が極端に少ないのです。オスが2匹、メスが1匹しかいないのです。来年も会える保証はありません。

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4.学んだこと
 今年の夏の2つのため池でベニイトトンボを発見した体験から学んだことを列記しておきます。トンボマニアの方へのアドバイスとなれば幸です。
1)名もない小さなため池に生息している
2)里山にあるため池である
3)水際に木の枝や草が被いかぶさって水面が見えない
4)水面と上を被う木の枝や草のわずかの空間で生活しているらしい
5)そこは人が近付けない状態なので確認できない
6)人が近付けないから今まで生き残ることができたのであろう
7)私が見つけたのはヤブの切れ目である
8)ヤブの切れ目に出てくることもあるが、危険を察知するとすぐヤブに逃げ込む
9)種名や図鑑の解説から鮮やかな赤色を連想するが、実物は地味な橙色であり、メスは更に地味である。従って枯れ枝に止まってジッとしていると、マニアといえども気がつかない。
10)飛び方は、他のイトトンボのような機敏さはない。キイトトンボと似た飛行をする。すなわち、木の枝や草の葉に衝突するのではと心配するぐらいギクシャクした飛び方である。
11)警戒心が強い
12)青や緑色が多いイトトンボの中にあり、唯一の赤い種である。従って種名の同定を誤ることはない
13)発見できれば、マニアでなくても感動する

おわり
平成24年12月記


東広島の自然(2013.3)No.44 掲載

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