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観察会「海浜の生物と自然観察」

観察会「海浜の生物と自然観察」

日程:2006年9月9日(土)12:30~16:00
場所: 東広島市安芸津町大芝島北部海岸
参加人員:38名
担当者:遠部 卓(東広島市自然研究会会員・広島大学名誉教授)
(講師)岡田和樹(竹原「ハチの干潟探検隊」代表)
    上野大輔(広島大学大学院生物圏科学研究科修士課程学生・
         瀬戸内圏フィールド科学教育研究センター竹原ステーション)

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観察会の様子(安芸津町大芝島)


大芝島海浜生物観察会経過報告

報告 遠部 卓


 12:30大芝島駐車場に集合,後藤益巳東広島市自然研究会事務局長の司会により,沖村雄二会長の開会の挨拶ののち,担当者の自己紹介,観察対象である海岸生物の特徴と採集上の注意点などが説明されました。当日は特別にお二人の方に参加していただきました。

 岡田和樹さんはSCUBA潜水で瀬戸内海の生物の観察,特に絶滅が危惧される「オノミチキサンゴ」の生息場所を探索・記録しておられる若い熱心な生物愛好家です。最近は竹原市の賀茂川河口の「ハチの干潟」探検隊代表として干潟生物の定期的調査を行い,干潟の保護活動を続けておられます。上野大輔さんは竹原市にある広島大学瀬戸内圏フィールド科学教育研究センターに所属し,フグ類の生態的特性とその寄生虫の多様性との関係を明らかにする研究に没頭しておられる「生き物大好き」な大学院の学生さんです。

 13:00大芝島駐車場へ移動。台風13号の余波で折から瀬戸内海沿岸に発令されていた「高潮注意報」のため,まだ潮位は高く,直ちに生物採集を始めることができません。そこで採集・観察場所の海岸に所在する東広島市の天然記念物「白亜紀の地層の褶曲」の露頭の観察会を沖村会長に解説していただいて行うことに予定を変更し,海岸道路を歩いて現地へ移動しました。

 この海岸は大芝島の北端に突出する岬の基部に当たります。中央には上記の地層の露頭の延長部が連なって岩礁地帯を形成しており,まわりには一面に2~30cm大の礫が点在する典型的な岩礁,転石海岸です。13:30潮の干き始めた海岸に参加者は散らばり,生物観察・採集が始まりました。

 若い岡田和樹さん,上野大輔さんの細かく丁寧な指導で,特に小中学生が興味深そうに説明に聞き入り,それぞれが採集した生物を持ってきては熱心に質問する姿はほほえましい光景でした。

 15:00観察終了。担当者岡田さん,上野さんにより採集された生物とその特徴が説明されました。なお,前日9月8日,地元では「消えつつある島」として知られるホボロ島(大芝島と本土の間にある小島)の調査が安芸津町木谷小学校の環境学習として行われ,そのとき採集されたニオガイ(穿孔性貝類)と見事に穿孔された泥岩の標本が古本敦子さんによって紹介され,参加者の注目を浴びました。調査に参加された沖村会長によると「生物による岩石浸蝕」の典型例として地質学的にも興味深いそうです。ちなみにニオガイは竹原周辺からもすでに記録されています(大塚,未発表)ので,注意して観察すれば他の場所でも見つかるかもしれません。

 15:30駐車場に移動。担当者(遠部)から,海岸,特に瀬戸内海の島嶼部に典型的な海岸とその生物を観察できたこと,休日という制約のために観察に最適の潮時ではなかったとはいえ,昨年5,6月の採集では見つからなかったいくつかの動物が新たに観察できたことが報告されました。最後に沖村会長から,会報に報告を書いてもらう小中学生に美麗な方解石の標本が進呈され,16:00観察会を無事終了しました。

 生物観察・採集の記録は以下にあるように上野大輔さんが小学生の参加者にもよく理解できるように,大変わかりやすく書いて下さいました。生物写真とともに当日の様子を思い出していただきたいと思います。また,東広島市自然研究会が目指している「東広島市の自然誌」編纂の基礎資料として,昨年と今回の計3回の観察で記録された「大芝島海岸生物リスト」(p.25,26)を併せて掲載しておきます。今後,最干潮前後の潮時にあわせた調査を定期的に行い,リストを充実さてゆくことが必要であると考えています。

 瀬戸内海の沿岸のほとんどは人工の手が加わってコンクリート護岸で覆われてしまっています。島嶼部といえども例外ではなく,生活の利便性のために島を巡る周回道路が建設されて,自然の海岸が消滅しているところが多いのです。昨年に引き続いて行われた今回の観察は,大芝島のなかでも貴重な自然海岸が残されている場所です。このような場所の環境と生態系(そこにすむ生物と環境との関わり)を大切に保護してゆきたいと思います。

 謝辞:当初6月11日に企画されていた観察会が私の体調不良により延期され,そのために沖村会長をはじめとする会員や関係者の皆様に多大のご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。

 当日は天候不順だったにもかかわらす多数の方々が参加してくださり有難うございました。また,特別に参加することを快諾され,熱心なご指導を賜った岡田和樹さん,上野大輔さんに心から御礼を申し上げます。最後にこの調査に対し温かいご支援をいただいている大塚 攻 博士(広島大学大学院生物圏科学研究科瀬戸内圏フィールド科学教育研究センター教授)に感謝いたします。 (2006.9.28記)


大芝島の海浜生物観察記

報告 上野 大輔


 秋雨前線の影響からか前日は雨で当日も広島県各地で雨が降っていましたが,今回の観察会開催地である大芝島は天候に恵まれすっきりと晴れていました。私は今回が観察会への初参加で,来たことのない海だったこともあり期待も高まります。

 島の北東方向に回った大芝島東港近くの岬付近には,天然記念物に指定されている「大芝島の褶曲」があり,その周囲の海岸が今回の観察場所でした。この日は満月の翌日の大潮でしたが,最干潮にはまだ時間があり潮がやや高い時点からのスタートとなりました。

 島まで車で移動し駐車場から目的の海岸を目指して歩きます。観察会の説明を聞きながら港の中を覗いてみると,今年生まれたクサフグ,クロダイやメバルの子供が泳ぎまわっているのが見られました。
 
 説明の後,島の外周をぐるりととりまく道路を通って,褶曲のある海岸へと向かいます。途中の路上にはアカテガニ(写真10)やフナムシなど陸の上を好む海岸性の甲殻類がちらほら見られます。

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写真10 アカテガニ

 ヒライソガニもいくらか見られました。港の横にある民家の庭先を失礼させていただき,岸壁沿いに褶曲を目指します。まだ潮が引ききっていませんでしたが,岩の上にはアラレタマキビやコウダカアオガイ(写真2)などの巻貝,イワガニやヒライソガニなどのカニ,そしてフナムシが多く見られました。

写真2 コウダカアオガイ.jpg
写真2 コウダカアオガイ

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コウダカアオガイ,裏面

 アラレタマキビは海の貝なのに海水に浸かるのを嫌います。コップやバケツに海水を張り,その中に貝を入れるとみな上によじ登って出てきてしまいます。それらの貝よりもうちょっと下の水に浸かるあたりにはイシダタミ(写真4),スガイ(写真5)という小さな巻貝も見られました。これらは地元ではどちらも食用とするそうです。

 スガイはサザエと同じように硬くて丸い蓋を持っています。これはサザエの仲間に共通に見られる特徴です。サザエの仲間ということでこれはとても美味です。

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写真4 イシダタミ

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写真5 スガイ

 褶曲に到着し,その大きなスケールにまずは驚かされます。当日の説明によると,この黒い泥岩地層は白亜紀のもので,中にはカイエビという貝殻状の構造を持った甲殻類や植物の化石がたくさん含まれているということです。カイエビというと馴染みが無い方も多いかもしれませんが,1cm程度の大きなミジンコのようなものを田んぼや水溜り,池などで見たことのある人はいるのではないでしょうか。

 何かとんでもないものが見つかるのではないかと,期待に胸を膨らませながら周辺に散らばる泥岩を調べてゆきますが,結局この日化石が見つかることはありませんでした。

 海岸生物の方はというと,あたり一面に散らばる大小様々な石の下からたくさん見つかるヒライソガニとイワガニ。どちらも日本中の海岸で最も良く見られるカニたちです。ヒライソガニは色や模様が大変バラエティに富んでおり,かつてはスマイルマークのついたものが見つかったこともあるそうです。この日も白,茶,黒など実にカラフルなカニたちを見つけることが出来ました。

 また,まだ水の中に浸かっている岩にはびっしりとマガキが付いています。その中には少数ではありますが,ケガキ(写真7)という少し珍しいカキも見られました。

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写真7 ケガキ

 カキの隙間にはイボニシやスガイ,イシダタミ,オオヘビガイなどの巻貝が見られました。オオヘビガイは名前のとおり蛇がとぐろを巻いたような形をしています。岩にセメント質のものでしっかりとくっついていて容易には剥がせません。

 また,蛇という名前はついていても本当の蛇の様に獰猛ではなく,殻の入り口付近に粘液を蜘蛛の巣の様に張り巡らせ,そこに絡まったものを食べるという,とても大人しい生活を送っています。しっかりと岩にくっついているので,動くことができないのです。

 また,ナミマガシワという二枚貝も見つかりました。生きているときはとても地味で岩にへばりついており,おそらく多くの人は気にも留めないと思います。しかし実はとても綺麗な貝です。砂浜で波に洗われ磨かれた,赤や黄色の真珠光沢を持つ貝の破片を拾ったことはありませんか。あれが実はナミマガシワです。世の中にはこのナミマガシワばかり収集しているコレクターもいるとのことです。

 他にはイワフジツボ,タテジマフジツボといったフジツボも無数にくっついています。これらは貝のような殻を作りますが,エビやカニに近い生き物です。その証拠に殻を割ってみると,ヤドカリの出来損ないのような本体が出てくるし,食べてみるとエビのような味がします。

 大量のカキの中には死んで殻のみとなったものも多く見られ,そっとめくってみると生まれて定着したばかりの直径2,3mmくらいの小さな巻貝の赤ちゃんがいっぱい着いています。カキの殻の中は波や外敵からの攻撃を受けにくいため,ゆりかごとして利用されているのでしょう。生命の息吹を感じとることができます。

 段々潮が引き,どんどん色々な生き物が見つかります。干上がった岩や,石の裏からはヒザラガイ(写真1),ウスヒザラガイ,ケハダヒザラガイの1種など,様々なヒザラガイの仲間が見つかりました。

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写真1 ヒザラガイ

 これは貝の仲間なのですが,なんと貝殻が8枚もあります。貝は巻貝と二枚貝だけでは無いんですよ。また,面白いことにこのヒザラガイの歯は砂鉄と同じ磁鉄鉱を大量に含むので,磁石によくくっつきます。ヒザラガイは岩の表面についた藻類などをガリガリと削って食べるため,このように硬い鉄の歯を持つに至ったようです。

 今回得られたヒザラガイの仲間は,多くが周りに溶け込むような地味な色をしていましたが,一個体のみ見つかったウスヒザラガイの殻の色は実にあざやかなオレンジ色をしていました。とても綺麗なので思わず持って帰ろうかと思いましたが,ヒザラガイ類の殻の色は死ぬと失われてしまうのです。そっと海に返すことにしました。

 潮が引いて現れた,砂の上には3cm程度の鋭くとんがったホソウミニナ,アラムシロガイ(写真6)といった巻貝の仲間がたくさん見られます。これらはいずれも海の掃除屋と呼ばれており,ヤドカリなどとともに死んだ生き物やゴミを食べて生活しています。

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写真6 アラムシロガイ

 海の中から現れた岩の表面には,腹巻のような縞模様のついたイソギンチャクが見られます。これはタテジマイソギンチャクという種類で,ヒライソガニと同じように色彩のバラエティが非常に豊かです。

 今回も緑色の地にオレンジの縞のものや,白地に黒い縦縞のものなどが見つかりました。また,海岸に来る途中見たコウダカアオガイに非常に良く似たアオガイ,ウノアシなどの貝も見つかりました。

 これらの貝は貝殻一枚のみをもち,岩や護岸にぴったりとくっついています。そのため一枚貝の仲間だという人がたまにおりますが,れっきとした巻貝の仲間です。そもそも一枚貝などというものは存在しません。この巻いていない巻貝たち,アオガイは殻の裏側が綺麗な青色をしているところから,ウノアシは “鵜の足” に形が似ているところからその名が付けられました。

 それから,先ほど見たスガイやイシダタミと似たような大きさの,これも食べられる貝ですがコシダカガンガラ(写真3),そしてやや小さめのカタツムリのような形をしたクロマキアゲエビスという巻貝も見つかりました。これらの岩の隙間からは殻が船の形に似たコベルトフネガイ,耳の形に似たミミエガイといった二枚貝も見つかりました。

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写真3 コシダカガンガラ

 観察会終盤には本当に多くの岩が露出していました。その岩の上を彩るようにオレンジ色のダイダイイソカイメンと黒色をした海綿の一種が見られました。

 海綿は英名でスポンジと呼ばれ,ヘチマのように繊維が密集した構造を持つ種類もいます。そのため昔から色々なものを洗うのに利用されてきました。しかし,人の肌に合う硬さの海綿はなかなか捕れないためか今なお高級品として扱われています。ちなみに今回観察した2種類の海綿は,どちらもスポンジにはなりません。

 他にはヒラムシという原始的な動物や,今回観察された数が少ない魚類のシマハゼ,釣りえさとして馴染み深いゴカイの仲間なども見つかったようです。

 また,生きてはいなかったものの,クチバガイ(写真8),オオノガイ,イタヤガイ(写真9),ハボウキガイ,サザエなどの殻も見つかりました。何れも古いものではなかったため,付近に生息しているものと考えられます。

写真8 クチバガイ.jpg
写真8 クチバガイ

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写真9 イタヤガイ

 海岸動物以外に植物も見られました。今回,実際に生えているところは見られませんでしたが,海岸沿いにはアマモが大量に打ち上げられていました。

 アマモは砂地や泥地,干潟などに多く見られる植物です。当日岡田君の説明にもあったのですが,アマモは海藻ではなく海草と書きます。なぜならばアマモには花が咲き,実が出来ますが海藻には花も実もありません。それはアマモのルーツに関連しています。現在陸に生えている植物は海の中から陸に進出してきたものですが,アマモはそこから更に海の中に戻った植物です。海藻類はあまり見られなかったのですが,その中で多く見られたのがアナアオサです。これも岡田君の説明によると青海苔の原料となるとのことです。

 そのようなところで観察会は終了し,来た道を歩いて戻りました。締め括りの挨拶も終わろうかというときにタイミング良く雨が降り始めました。観察会の間だけ綺麗に天気がもってくれて最高の幕引きとなりました。

 このように今回の観察会では実に多くのものを観察することが出来たと思います。海の中は繋がっていますが陸沿いから海の中に入っていくにつれ,また底の環境の違い,流れの有無,干満の差などで住んでいる生き物の種類も量もまるで違ってきます。

 今回観察を行った海岸でも,もっと沖に出れば深度も下がり潮の流れも強くなるため,より多くの変化に富んだ生き物を見ることが出来るでしょう。

 また,海の中には今回観察した地層の様に様々な時代のものが複雑に堆積しています。それは貝殻であったり,あるいは江戸時代の陶器であったり化石であったりと様々です。海には一つとして同じ環境の場所は無いと思います。今度海に行く際には,ここはどのような海なのだろうかと色々考え観察し,感じ取ってみてください。ただ景色を見たり泳いだりするのも十分楽しいのですが,もう一味楽しみも深くなると思います。


感想文

郷田小学校2年 須川 元

 きょう,大しば島に海の生物のかんさつにいった。ハンマーで,石をガンガンわったけど,化石はみつからなかった。

 でも,おもしろい生物はいっぱいいた。たとえば,ヒライソガニや,ベンケイガニや,フナムシや,ヒザラガイのなかまや,ヤドカリのいっしゅや,アサリ,ヒライソガニやベンケイガニは,海の生物をけんきゅうしているおにいさんにきいて,名前を教えてもらった。

 小さくてかわいいかにや,ヤドカリのなかまや,アサリは家にもってかえってそだてていこうとお父さんが言ったから,そだてることにした。アサリは死なないかどうかしんぱいだが,まだ生きている。

ヒザラガイ,フジツボ(スケッチ 須川 元).jpg
ヒライソガニ,フナムシ(スケッチ 須川 元)

ヒライソガニ,フナムシ(スケッチ 須川 元).jpg
ヒザラガイ,フジツボ(スケッチ 須川 元)


●感想文●

うちもと ゆういちろう

ぼくは,かきとりがたのしかったよ。おとうさんが,かきをたべておいしいねといってくれたことがうれしかったです。
またいきたいです。
(子供は,マガキをたくさん取って帰りました。)


お礼:岡田和樹さん(竹原市,賀茂川の河口,ハチの干潟調査隊代表)には,お忙しいなか,大芝島の海浜の生物について,大変分かりやすくご指導いただきました。本当にありがとうございました。

東広島の自然(2006.12)No.38 掲載

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