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「里山の宝物 オオサンショウウオ -東広島の現状と未来-」

行事報告

平成24年度総会記念講演

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講演会の様子(東広島市豊栄生涯学習センターホール)2012.6.24


「里山の宝物 オオサンショウウオ -東広島の現状と未来-」

                        桑原一司
                        日本オオサンショウウオの会 会長
                        
 2011年に実施された4回の調査により、沼田川水系豊栄町の椋梨川で11頭のオオサンショウウオの生息が確認された。それより以前、この地には地元のオオサンショウウオを守る会(高松哲男代表)の活動があり、地元住民の間ではオオサンショウウオが生息していることが分かっていたが、このたび、学術的な確認に至ったものである。先行の活動をしてこられた豊栄のオオサンショウウオを守る会並びに旧豊栄町に敬意を表すところである。

 オオサンショウウオとはいかなる生きものであるのか。それは国の特別天然記念物であると同時に、姿かたちを変えないで数千万年の時間を生き続けてきた生きた化石として、世界的に注目を集めている生きものである。すでにヨーロッパでは死に絶えて、化石としてのみ産出する巨大な両生類であり、シーボルトが日本に来て、東洋の片隅に絶滅した巨大な両生類が生き残っていることを本国に伝えた時の驚きは、私たちがシーラカンスにそそぐ関心に匹敵したであろう。それ以来、日本のオオサンショウウオは、世界中から注目される生きものとなり、日本国の宝物、特別天然記念物となったのである。

 オオサンショウウオは岐阜県から大分県までの中国山地を中心とした山間部のきれいな川に住んでいる。広島県内の分布は、庄原市、北広島町、廿日市市吉和を中心に県北部に広く生息しているが、瀬戸内に流れる河川では太田川、小瀬川において生息地の確認があるにすぎず、沼田川、芦田川、黒瀬川などでは生息地は未確認であった。このたびの椋梨川での生息地の確認は、四国の河川を含めて広く瀬戸内地域にオオサンショウウオが分布していた可能性を示すものであり、同時に、なぜ、瀬戸内沿岸部においてはオオサンショウウオが消滅していったかを研究する上でも重要である。

 椋梨川流域における生息状況はまだ不詳であるが、2012年2月15日の調査では10頭の幼生が発見されるなど、繁殖個体群として生息していることは確かである。一方、河川の状態は、コンクリート護岸部が多く、堰堤による河川の分断化が見られるだけでなく、底質の泥化もあり、決してよい状態とは言えない。今後、詳細に調査をして、生息の全体像を把握し、保全を進める必要がある。

 オオサンショウウオの保全は、文化財として、あるいは希少生物としての価値に留まらず、調査や保全が進むほど全国あるいは世界から注目され、世界の東広島として躍り出る可能性を含んでいる。たとえば広島県北広島町志路原は、安佐動物公園の調査地として38年の歴史をもち、住民が協働して保全を進めている地域であるが、2004年のNHK「地球不思議大自然」の撮影地になって以来、BBC英国放送協会やドイツ放送の自然番組の撮影地となり、世界に知られる地域となっている。また、岩国市錦町は、最近発見された生息地の一つであるが、地元住民、行政、研究者が一体となって「錦川オオサンショウウオの会」を設置し、「日本オオサンショウウオの会」第9回全国大会の開催地として本年9月29日・30日の開催に向けて準備を進めている。このような地域が全国にいくつかあり、その連合体である「日本オオサンショウウオの会」は年々発展を続けている。

 豊栄のオオサンショウウオ個体群は、何とか絶滅を免れたぎりぎりの個体群とも思われ、その存続は東広島市住民の努力にかかっている。この個体群を守る活動は、子どもたちに環境教育の場を与え未来を担う子どもたちを鍛えるだけでなく、オオサンショウウオと一緒にすむほかの生きものも守られて河川・地域全体の自然が豊かになるであろう。まずは、東広島のみんながこのことに気付き、里山の宝物として豊栄のオオサンショウウオを保全してほしい。

                           2012年6月24日

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