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東広島市椋梨川におけるオオサンショウウオの保全活動の成果と課題

みんなの広場

東広島市椋梨川におけるオオサンショウウオの保全活動の成果と課題

広島大学総合博物館 清水 則雄

Ⅰ.はじめに
 平成24年度のオオサンショウウオの保全を目的とした現地調査を無事に終えることができました。冒頭に本調査にご協力頂いた皆様に心より感謝いたします。特にオオサンショウウオの生息地を守る会代表高松哲男氏、豊栄の自然を守る会代表佐藤捷徳氏、岡崎萬治氏には調査地の案内や観察会における会場の提供、過去の観察記録の提供などのご協力を頂きました。東広島市自然研究会会長土岡健太氏、副会長上田進氏をはじめとする会員の皆様には共同で調査を実施して頂き多方面からご支援ご協力を頂きました。日本オオサンショウウオの会会長桑原一司氏には、調査の指導のみならず、シンポジウムや現地報告会での講演など多岐にわたり多大なるご指導ご助力を頂きました。広島市立安佐動物公園田口勇輝氏には調査指導並びにご支援ご協力を頂きました。東広島市教育委員会妹尾周三氏、伊藤誠氏をはじめとする同市教育委員会文化課の皆様には文化庁への調査の届け出や調査への立会、調査器具の購入補助など多方面からご支援を頂きました。広島大学の学生の皆様には複数回にわたり調査に参加頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。

 本稿では、東広島市椋梨川で実施した同種の保全調査・教育普及活動の現段階での成果と課題について、私なりの想いを述べさせて頂ければと思います。

Ⅱ.活動の経緯と内容
 平成23年8月から始まった我々のオオサンショウウオの保全を目的とした現地調査は、本種の成体を確認し、少数ながらも幼生を確認できたことから、年度末にはその課題として分布調査の継続はもちろん、地域を巻き込んだ教育普及活動の必要性を感じ始めていました。そんななか、平成24年度広島大学地域連携推進事業の一環として「東広島市における国の特別天然記念物オオサンショウウオの分布調査と教育普及活動」として採択頂けたことで分布調査だけに留まらない教育普及活動の実施が現実味を帯びて来ました(詳しい経緯は、本会報43号の土岡会長の報告を参照下さい)。

 本プロジェクトの目的は、①東広島市に生息している国の特別天然記念物オオサンショウウオの分布調査から、その正確な分布域、個体数、再生産活動の有無を把握し、その保全資料とすること。また、②地域において観察会、講演会、展示を組み合わせた出前博物館等を行うことで地域における教育・普及活動を展開すること。これらを通じて地域と学生を結んだ本種の保全活動の醸成を目指すことを最終的な目的として、以下の3部構成で実施しました。
① 現地調査による分布、個体数、再生産活動の把握
② 地域の公民館等の公共の場所において出前博物館等の教育普及活動の実施
③ 第9回全国オオサンショウウオの会(山口県岩国市)において成果の発表

調査の実施内容
① 分布調査(5-11月)
 調査場所は、提案者が予備調査により本種の生息を確認している東広島市豊栄町椋梨川上流部にて行う。同河川の“アンゴウ”堰から源流部まで距離約3,400mを調査区域とする。本種の主な活動期間は5-11月末までということが知られているので、この間、毎月1-2回を目安に、年間7回程度実施する。調査は、夜8時から2時間程度、下流から上流に向け約500-600mを徒歩で移動しながら本種の生息確認を行う。本種確認後、個体を捕獲し、全長・体重・性別・身体的特徴ほかを計測・観察し調査票に記録する。現在、個体識別は全国共通の認識番号を持つマイクロチップ(トローバンARE H5)を使用することが推奨されているので、本チップを左前肢付け根付近に挿入し放流する。調査は川の中を歩く捕獲班(2-4名)と川沿いの堰堤や道路上での記録班(3-4名)の2班に分かれて1グループを作る。いずれの作業も、本学学生をコアに、東広島市自然研究会、当地のオオサンショウオの生息地を守る会と協働して行う。

② 出前博物館
 豊栄町公民館まつり、福富道の駅、東広島市生涯学習フェスティバル、東広島市民ギャラリーなどの公開施設のいずれかで検討・調整を行い出前博物館を開催する。出前博物館では調査の成果をまとめたパネルや、マップを作成し、写真や動画を交え、オオサンショウウオ関連の展示物とともに地域に発信する。合わせて、オオサンショウウオ研究の日本の中心的な存在である広島市安佐動物公園等から講師を招き、講演会や野外観察会を実施する。出前博物館は、当館のネットワークに情報発信するとともに、宣伝用のビラを作成しマスコミ各社へのプレスリリースを含む広報活動を行う。また、本調査の今後の継続性の観点からも、当地のオオサンショウオの生息地を守る会、東広島市自然研究会と連携した広報活動も合わせて行う。

③ オオサンショウウオ全国大会における成果の発信
 日本全国のオオサンショウウオ研究者、保護団体、行政担当者が一同に介するイベントが、日本オオサンショウウオの会である。H23年度は、愛知県瀬戸市にて開催されている。
H24年度は、山口県岩国市で開催予定であるので、本会に参加し、情報交換・交流をはかるとともに、学生による発表を検討する。
というものでした。これを図にすると図.1のようなイメージです。

イメージ1.png
図.1 オオサンショウウオの分布調査と教育普及活動のイメージ

Ⅲ.活動結果
 いざ活動を開始し、2012年4月11日〜2013年3月24日まで、主要なものだけでも実に26回に及ぶ現地調査と教育普及活動を実施することができました。活動のおおまかな概要を表1に示しました。細かなデータは今回省きますが調査結果・普及活動の成果と課題を下記に示します。

表1 活動概要と調査結果のおおまかな流れ
5/25 広島大学総合博物館事務室にて打ち合わせ後、分布調査&観察会 成体1尾確認。
6/19 東広島オオサンショウウオの会が発足。
6/22 第7回博物科学会 in 京都にて発表(清水・土岡・橋本)。
6/24 豊栄生涯学習センターホールにて講演会(日本オオサンショウウオの会 桑原 一司 会長)。来場者113名。
8/17 分布調査&観察会 成体2尾確認。
8/18 分布調査 巣穴を構える雄確認(ヤマサキクン)。
8/26 分布調査 成体1尾確認。
8/27 分布調査 成体1尾確認。
8/30 分布調査 成体2尾確認。後の繁殖雄(ヌシ:シミズクン)+繁殖雌。
9/5 分布調査 成体2尾確認(1尾は後に繁殖確認)。
9/6 分布調査 繁殖行動・産卵の確認。
9/29.30 日本オオサンショウウオの会 in 岩国 土岡会長・山﨑大海君 発表。
14名参加。2014年度の全国大会開催候補地として浮上。
11/3.4 東広島市生涯学習フェスティバルにて出前博物館の開催。
来場者数:1,132名。
11/18 北広島町「三ちゃんS村」視察。桑原先生による現地案内。
12/17 幼生吸出し調査 巣穴内より幼生1尾確認。
12/23 現地報告会&観察会 雪の中、巣穴とヌシを観察。参加者40名。
1/25 現地報告会 自治協議会の関係者対象(桑原先生、土岡会長)
1/28 全国大会開催に向けた打ち合わせ&幼生調査 巣穴直近で14尾確認。
2/4 幼生調査 39尾確認。下流への流下分散を確認。
2/10 幼生調査 85尾確認。このうち3尾を上流で確認。第2の巣穴の可能性。
2/17 幼生調査 82尾確認。このうち10尾を上流で確認。第2の巣穴の可能性強まる。
2/25 幼生調査 136尾確認。このうち上流の支流で12尾確認。第2の巣穴が決定的に。
さらに本流上流でも5尾確認。第3の巣穴の可能性。
3/11 幼生調査 194尾確認。巣穴下流の堰を超えて3尾の流下分散を確認。
また、本流上流で幼生10尾を確認。第3の巣穴の可能性がさらに強まる。
3/22 地域課題懸賞論文 最優秀賞受賞 山﨑大海君。
3/24 幼生調査 180尾確認。このうち17尾が最上流部にて新規に確認。第3の巣穴の存在も決定的に。全体的に緩やかな幼生の流下分散傾向が見えてくる。

①ı 査活動の成果と課題
01. オオサンショウウオの成体を21個体確認(マイクロチップ挿入個体は11個体)したことで椋梨川が本種の生息地であることを改めて確認できました。
02. 同種の産卵巣穴をつきとめ繁殖行動の事前事後行動を観察し、さらに幼生を確認できたことで、同河川が本種の大変貴重な繁殖地として機能していることを証明できました。
03. 繁殖を確認した巣穴から巣立った200尾近い幼生が、約2.5ヶ月もの間、巣穴周辺に留まり、徐々に下流に流下・分散していく幼生の分散過程の一端をはじめて解明することができました。
04. 幼生調査の後半には、確認した産卵巣穴の上流において複数の場所で高い密度で幼生を確認したことから、さらに2つの巣穴が存在することが強く示唆され、本調査地が複数の自然巣穴を保持する本種の保全上極めて重要な生息場所であることが明らかとなりました。
05. 本種の保全を考える上で、最も重要な生活史の一端を明らかにできた反面、確認できた個体の全長の中央値が77.5cm(最小値60-最大値86cm,個体数21個体)と幼生を除くとかなり大きな個体のみでした。これは幼生から大型個体までをつなぐ中サイズクラスの個体が発見できなかったことを意味しており、本調査地が成体の生息は可能であるが堰などにより幼生の流下が大幅に制限されている可能性や幼生の餌不足等、何らかの理由で幼生が生息できない生息地である可能性が示唆されました。
06. 最も下流側の第1調査区では、6個体の成体を確認できたがこれらの中には、上流側の第6区間で巣穴を構え、繁殖を行った雄のヌシや雌よりもより全長、体重、肥満度が高い個体も確認できました。これらの個体は第1区間終点のコンクリート堰堤直下周辺で確認できたことから、産卵のための上流への移動が制限され、やむなく次善の巣穴での産卵を余儀なくされている可能性も示唆されました。次善の巣穴での産卵では卵の流出等が見られる場合が多く、本区間での繁殖行動の観察も新たな課題として浮き彫りとなりました。

②教育普及活動の成果と課題
01.野外観察会・公開講演会・現地報告会では、交通の利便性の悪い開催場所にも関わらず、予想を上回る参加を頂きました。広く東広島市民への周知を目的とした生涯学習フェスティバルでは、1,000名を超える来場を頂き、広く本種の存在を周知できたと考えています。また、観察会等の教育普及活動と併せて本種の持つ“地域資源”としての絶大な影響力を窺い知ることができたと考えています。
02.本活動の過程で、東広島オオサンショウウオの会が発足することになりました。少子高齢化により活動が減衰していた地域の活動に、東広島市の都市部に所在し、会員数の多い東広島市自然研究会が加わったことで、当面の活動は担保されることとなりました。今後は本会の活動に学生が継続的に加わることで、調査の充実と活動の活性化を行なっていく必要があります。特に学生は卒業により東広島市を離れる場合が多く、大学博物館を核とした継続性のある活動システムの構築が急務であると考えています。また、今後は、地元の小中学生らを対象とした観察会などを精力的に開催し、地元の若い力を取り入れた調査・保全活動の実施が大きな課題となっています。

Ⅳ.今後の展望
 本年度の調査を終えて図1を改変し我々の目指す、地域・大学・自治体の連携した保護活動の体系を図示しました(図.11)。椋梨川での保全活動は学生と地域住民との協働により行われました。広島市安佐動物公園の職員の指導・協力により専門的な調査を実施することができました。さらに、広島大学総合博物館や東広島市教育委員会といった公的機関が調査に参加したことで、公的かつ学術的な記録を残すことができたと考えています。専門的調査に基づく公的な情報の蓄積は、寿命が50年以上ともいわれる本種の調査において、今後極めて重要なものとなるでしょう。
 調査により得られた情報は現地観察会・報告会などの教育・普及活動を通じて広く地域に還元しました。椋梨川は学びの場として機能しており、夜間の野外調査や、オオサンショウウオに触れる非日常の体験は、参加者への知的好奇心の喚起と活動の継続にもつながっています。さらに、通常接点のない地域住民の皆様と学生との交流の場として、学生の社会勉強の場としても機能していると感じています。
 本活動はまだ始まったばかりであり、先述のように課題も山積しています。しかし、短期間に地域・大学・自治体それぞれの特性を活かした学園都市東広島ならではの活動体系の基礎を作ることができたと思います。大学や動物園などの専門性・学術性が付与された地域に根差した保護活動は他に類を見ないものであり、野生動植物保全の新たなモデルケースになるものと期待しています。

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図.2夜間水中を移動するオオサンショウウオ Andrias japonicus (Temminck, 1836)

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図.3調査の様子

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図.4講演会の様子

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図.5日本オオサンショウウオの会での発表の様子

その5.jpg
図.6現地説明会の様子

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図.7東広島市生涯学習フェスティバルでの出前博物館の様子

その7.jpg その8.jpg
図.8雪にも負けず・・・         図.9採捕した幼生(全長約50mm)

その9.jpg
図.10 落ち葉から這い出してきた幼生


画像の説明
図.11 地域・大学・自治体が連携した保護活動の体系


東広島の自然(2013.3)No.44 掲載

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