自然に親しみ、観て触れて学びながら、自然を守ろう

かやぶきを訪ねて

かやぶきを訪ねて

上田 進


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 東広島市志和町志和堀を初めて訪れたのが15年前。そこで見た茅葺き民家に強いカルチャーショックを受け、心に惹きつけられるものを感じて各地を訪ね歩くことになった。

 私にとって茅葺き民家の魅力とは①風貌、②自然素材、③囲炉裏にある。①風貌とは独特な郷愁を呼ぶ外観、その優しく温かいソフトイメージ。②自然素材だけで造られているのも大きな魅力。基礎の石、骨組みの木、壁の土、建具の紙、そして屋根の草、これらは全て家の役目を終えると自然に戻り肥やしとなる。人間は太古の昔からこの自然循環の中で生活してきた。③魅力のひとつに囲炉裏がある。そもそも家は火を守る為に造られたという。囲炉裏は家の中心にあって煮炊きのみならず家族のコミュニケーションの場でもあった。

 当研究会のエコバスツアー(2009・10)で芸北八幡高原に行った時、当会の堀越先生が囲炉裏端で座り方の説明をされたのは楽しい思い出。【写真1参照】

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写真1 広島県山県郡北広島町八幡 「山麓庵」 2009年10月25日

 私は茅葺き民家を訪れる度に、取り壊されたりトタンに葺き替えられたりしていく茅葺き屋根に全滅の危機感を抱き、せめて存在記録でもと休日を利用して各地を訪ねた。

 広島県内には2002年に300軒が確認されたが2007年には100軒余りと実に5年間で3分の1になった。その消滅スピードは年々速くなっている。農村の高齢化、後継者不足、生活様式の変化が主な原因で今後、茅葺き屋根は保存文化財でしか見ることができなくなると言われている。東広島市では八本松町、志和町、黒瀬町、豊栄町辺りに僅かだが散見される。

 その中の一軒に高齢の兄妹が二人きりで慎ましく暮らす家がある。屋根は珍しい藁葺き。訪ねると気持ちよく写真を撮らせていただいた上、お土産にカブト虫の幼虫を沢山戴いた。それは、まるでタイムスリップしたかのようなひとときだった。静かなたたずまいの中に人の温もりを感じ、現代人が失いつつある何かがここには残っている気がした。そこは開発の進む学園地区のすぐ隣。それから一年後、屋根を葺き替えたので見に来てほしいとの連絡を受け再訪。自分も手伝ったという真新しい藁屋根を見上げる姿は誇らしげだった。今もお二人はご健在であろうか。【写真2参照】

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写真2 東広島市黒瀬町津江 2002年3月

 瀬戸内海に浮かぶ周囲6kmの小さな島。1997年に大芝大橋が架かり本土とつながったみかんと枇杷の島。小学校跡そばの港に面してその茅葺き民家はひっそりとたたずむ。訪ねると老婦人がみかんを選別中、お話をうかがうと20年前に葺き替えた時は熊野町の職人が船で茅を運んだという。また、前年の台風による高潮時には床上まで浸水してきて町職員に救助されたと壁の痕跡を指差す。京阪神のデパートに出荷するという選別中のみかんをお土産にいただき名残惜しみつつ穏やかな初春の島をあとにした。帰宅後に賞味したそのみかんは極上の旨さだった。【写真3参照】

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写真3 東広島市安芸津町大芝島 2006年1月

 各地を探訪していると葺き替え現場に偶然出くわす。そこは茅葺きを愛する者同志、すぐに打ち解けての茅葺き談義。そのおひとりが志和町志和堀の石井元春さん。昭和7年生まれは76歳、現役で頑張っておられる。たったひとりで葺き上げていく広島県独特の工法「藝州流」を継承。この春から三永の東広島市歴史民族資料館の全面葺き替えを市より請け負われ今冬には完成予定。現在、県内には4名の現役の親方が活躍しておられるが共通した資質は明るく元気で話好き。昔話や工事の苦労話などを屈託なく話し、おかげでこちらがいつも元気を頂戴する。現在、どの親方も後継者造りに力を注いでおられるのは頼もしい限りだ。【写真4参照】

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写真4 東広島市西条町三永 「東広島市歴史民族資料館」 2009年5月
左 / 石井元春棟梁 右 / 弟子の久仲さん

 昨今、ヨーロッパでは茅葺き屋根が見直されてオランダでは毎年3,000棟の茅葺き住宅が新築されている。イギリスでは茅葺き職人の育成に政府が力を入れて現在15000名の登録がある。欧州各国はエコロジーの観点から美しい国土形成に向けて茅葺き屋根の技術改良や法の整備に取り組んでいる。将来、日本でも茅葺き屋根が見直される日がくることを願う。それに向けて技術伝承の動きが全国各地で僅かだが生まれつつあるのも事実。

 そうした中、私たちは茅=ススキをもっと知ろうと茅刈り体験イベントを毎年12月に一日ほど志和町志和堀で実施している。地元の茅職人さんの指導の下、休耕田に入り茅(ススキ)を刈り取り、束ね、組上げて流す汗は爽快。会員の皆様、ぜひ、一度ご体験を。【写真5参照】

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写真5 東広島市志和町志和堀 「かや刈り」 2008年12月13日

 今、世界で茅葺き屋根が見直されているのは単なるノスタルジアだけではないようだ。わが国でも防火対策や建築基準法の見直しをし、茅葺き屋根の復活が進めば農村の美化と活性化にもつながるのだが・・・。

 この庶民の文化遺産ともいえる茅葺き民家が消え去ることはいかにも忍びない。何とかならないものだろうか。

2009年11月1日 記

東広島の自然(2010.3)No.41 掲載


第5回茅刈り体験イベント2012in志和掘

主催 西中国茅葺き民家保存研究会

  • 日時:2012年12月1日(土)10時~15時
  • 場所:広島県東広島市志和町志和掘
  • 参加:35名

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カヤネズミの巣(抜け殻)

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