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龍王山の樹木

龍王山憩いの森 樹木観察の手引き

青山幹男

西条の町の北側に広がる龍王山は、西条の酒造りを支える水源の森として長い間大切に守られています。今日では、東広島市により市民の憩いの森公園として整備され、多くの人に利用されています。

管理事務所周辺には、芝生広場や大型の遊具、キャンプ場などが作られ、山の斜面にはたくさんの散策道や広場、休憩所などが作られています。さらに散策道沿いや広場にはいろいろな樹木が植えられ、四季折々の季節変化を楽しむことができます。

一方、山を覆う森は、人々の暮らしの中で利用されてきたアカマツ林が放置され徐々に荒廃してきました。谷あいにはヒノキなどが植えられ用材林として手入れがされてきましたが、アカマツ林のほとんどは松枯れの進行に伴い広葉樹に入れ替わってきました。最近では、ボランティアなどを含めた活動により、マツの植林や間伐下刈などの管理作業がおこなわれ、森を守り続けています。


憩いの森の樹木相
秋から春の間に、西条の町から龍王山を眺めると、中央の谷沿いに広がるヒノキ植林地が良くわかります(図1)。

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1.龍王山.jpg
(図1)憩いの森
 

また、管理事務所近くの谷間には常緑のアラカシが多く見られ、中腹以下の斜面にはヤマモモ、クロキ、ソヨゴ、ヤブニッケイなどの緑の葉を見ることができます。

乾燥した斜面や尾根筋ではアカマツが枯れた跡に生長した落葉樹が多くなり冬の間は緑が少なくなります。アカメガシワ、コシアブラ、タラノキなどは成長が早くアカマツと入れ替わって森を作っています。また、里山で利用していた、コナラ、アベマキやヤマザクラ、アオハダ、タカノツメも多く見ることができます。

公園の中は、野鳥の森、郷土の森、清流の森、水辺の森、散策の森、桜の森、樹種転換育林地など11のゾーンに分けられ、それぞれの目的に応じた植物が多く植えられています。そのため本来自生していない樹木もいろいろと観察することができます。


春の樹木観察
早春の野山を歩くと、ヒサカキの独特の臭いにおいが春の訪れを知らせてくれます。ツバキ科の常緑低木で、小さな葉をつけた小枝の下に隠れるようにして小さな花をたくさん咲かせます。下向きに咲く花を良く見ると、おしべだけをもつ雄花とめしべだけをもつ雌花がそれぞれ別の株に咲き、雌雄異株の植物であることがわかります(図2)。

2.ヒサカキの花.jpg
(図2)

同じ頃には、白い花をたくさん咲かせた木を山の斜面で見かけます。県内に広く分布するモクレン科のタムシバで、よく似たコブシは県北部に分布します。コブシは公園などにも植えられて、タムシバに比べて花弁の幅が広く、花の基部には緑色の葉を1枚つけているので区別できます(図3)。

3.タムシバ(左)とコブシ(右).jpg
(図3)タムシバ(左) コブシ(右)

一方、植物の中には、大量の花粉が風によって運ばれて受粉する風媒花の種類があります。このような植物では花が目立たないため知らないうちに咲いていることがあります。樹木ではカバノキ科のオオバヤシャブシやヤマハンノキ(図4)、ブナ科のコナラやアラカシなどがあります。また、花粉症の原因となる針葉樹のスギやヒノキも春先に大量の花粉を飛散します。

4.ヤマハンノキの花.jpg
(図4)


夏の樹木観察
樹木には白い花を咲かせる種類が多くあります。ホオノキは高い木の枝先にモクレンと同じ大きな花を咲かせ、エゴノキは枝の下にたくさんの花をぶら下げています。クリはおしべが目立つ白い花を穂状に咲かせて、ミツバチやカナブン、タテハチョウなどを集めます。

遊歩道の脇には、春に咲くハナミズキによく似た白い花を咲かせるヤマボウシが植えられています。花を良く見ると、4枚の花弁の中心に黄緑色の粒々が見えます。実はこの粒々が一つひとつの花の集まりで、花弁に見えるのは葉が変化した総苞片と呼ばれる飾りです。
山道の脇でもアジサイの仲間のコガクウツギが白い花を咲かせています(図5)。

5.コガクウツギの花.jpg
(図5)

枝先にたくさんの小さな花が集まって咲きますが、その周辺には白い目立つ花もあります。この花は装飾花と呼ばれ、花粉を運ぶ虫に目立つようにガクを特別に大きく発達させた花で種子をつけることはできません。

アジサイの仲間でも、同じようにガクが発達するノリウツギや装飾花を作らないコアジサイがあります。コアジサイは装飾花をつけない代わりに青色の花弁やおしべが発達し、よく目立つようになっています。また、尾根近くの木にはイワガラミの白い花が見えます。この植物は装飾花のガクが1枚しか大きくならないのでアジサイとは別の属に分類されています。

花には、それぞれの種の進化の歴史や子孫繁栄のための工夫が秘められています。花を眺めるだけでなく、その作りや仕組みを観察して楽しんでください。


秋の樹木観察
稔りの秋は、いろいろな木の実を見ることができます。バラ科のノイバラ、アズキナシ、カナメモチ、モチノキ科のソヨゴ、アオハダ、ウメモドキなどは赤い実をつけます。また、ヒサカキ、クロキは黒い実、ヤブムラサキは紫色の実(図6)。

6.ヤブムラサキシキブの花.jpg
(図6)

子供に人気が高いのはどんぐりの実です。どんぐりはブナ科植物の丸い実を総称しますが、憩いの森では8種類ほどのどんぐりを見ることができます。

落葉樹では、自生種のコナラが多く、アベマキも大きな木が点在しています。アベマキによく似たクヌギは自生していませんが、キャンプ場周辺にたくさん植えられています。両種のどんぐりはよく似ていて区別できませんが、アベマキの葉の裏には細かな毛が密生しているので区別ができます(図7:裏表紙外側)。

7.アベマキの実.jpg
(図7)

常緑樹では、アラカシがたくさん自生しています。渓谷沿いにはウラジロガシが少し自生しています。シラカシはほとんどが植えられたものと思われ、遊歩道沿いなどで普通に見かけます。管理事務所近くでは暖地性のマテバシイやスダジイを見ることができます。

憩いの森ではクスノキ科の樹木もいろいろな種類を見ることができます。葉の形に特徴が無く覚えにくい仲間ですが、生葉を揉むと独特の樟脳臭がする種類が多いので試してみてください。タブノキ、クスノキは植えられた木が大きく育っています。自生種のヤブニッケイは谷間で見かけます。落葉樹では、枝が和菓子の爪楊枝に利用される、低木のクロモジが多く自生しています。ヤマコウバシは茶色の葉を冬の間も枝につけたまま過ごします(図8)。

8.ヤマコウバシ.jpg
(図8)

尾根近くではカナクギノキが細長い葉を、ダンコウバイが3裂した葉を、黄葉させます。
落葉樹の葉は秋に紅葉し、やがて落葉となって散り冬を迎えます。紅葉の色や時期は樹木の種類により微妙に異なりますので慣れると遠くからでも木の名前がわかります。

憩いの森では、まずコシアブラの黄葉が始まり薄黄色の木が目立ちます。その後、黄色のアオハダ(図9)、アカメガシワ、タカノツメ、カナクギノキが目立ちます。

9.アオハダの黄葉.jpg
(図9)

赤く紅葉するのは、鮮やかなヤマウルシの他に、ヤマザクラ、ヌルデ、ヤマモミジ、ナツヅタなどを見ることができます。黄色から茶色になるのは、コナラ、アベマキ、クリなどのブナ科の木が多く目につきます。

憩いの森の中腹から尾根沿いにはウワミズザクラがたくさん自生しています。このサクラは白い小さな花を穂状に咲かせる珍しいサクラですが、秋にも面白い観察ができます。葉は他のサクラと同じで黄色から赤色に紅葉しますが、落ちるのは葉だけでなく細い小枝も落してしまいます。いくつかの樹木で見られる珍しい現象ですが、無駄な養分を使うことになるので生態的には不利になるのではないかと思います。


冬の樹木観察
冬の間は多くの樹木が生育を停止し休眠状態になっています。しかし、晩秋に花を咲かせたヤツデはゆっくりと実が大きくなり、ロウバイは寒い季節に花が咲き始めます(図10)。

10.ロウバイの花.jpg
(図10)

憩いの森では、休眠した樹木の冬芽を観察することができます。細かな毛で覆われたモクレンの冬芽や(図11)、光沢がある粘液で守られたトチノキの冬芽は特徴的ですが、他の樹木の冬芽でもいろいろと違いを観察することができます。

11.コブシの冬芽.jpg
(図11)コブシの冬芽

また、葉が落ちた跡(葉痕)の形や模様も樹木の種類によっていろいろと異なります(図12)。

12.コシアブラの冬芽.jpg
(図12)コシアブラの冬芽

これらの冬芽観察の手引きは、森林インストラクターの駄賀恒男さんが本誌の38号に書かれていますので参考にしてください。
樹木はある程度生長すると、独特の樹皮・樹肌になります。慣れてくると樹皮の特徴から木の種類が分かるようになります。代表的な樹木については覚えてみてください。

また、足元の1mくらいの範囲にある落葉の中から何種類の植物の葉を捜すことができるかゲームをすることもできます。それぞれの植物の名前が分からなくても、いろいろな植物の特徴や自生している場所の違いを理解する練習になります。

身近な場所にある憩いの森は自然観察のフィールドとして最適な場所と思います。山登りや散策だけでなく、頭上の樹木や足元の野草など少し視点を変えて観察してみませんか。

東広島の自然(2010.3)No.41掲載

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