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オオサンショウウオのメスはなぜ攻撃したのか?

みんなの広場

オオサンショウウオのメスはなぜ攻撃したのか?

   ~キズチャンとシミズクンの産卵行動中に観察された事象より~    

土岡 健太

はじめに
2011年8月より、東広島市豊栄町を流れる椋梨川上流部において、東広島オオサンショウウオの会はオオサンショウウオの実態調査を再開した。その結果、2011年度内で成体12匹、2012年2月には幼生10匹あまりを発見し、同河川がオオサンショウウオの生息地のみならず、繁殖地であることを実証した。引き続き、彼らの繫殖の実態を解明すべく、産卵巣穴を捜索し、ついに発見した。この産卵巣穴に出入りするオオサンショウウオ達の行動を観察する中で、彼らの大変珍しい出来事を観察したのでを報告する。
この出来事は、数十年にわたりオオサンショウウオを調査・研究してこられたK先生(広島市立安佐動物公園元副園長)をして、「♀同士のけんかは初めて観察した」と言わしめるものであった。

2012年9月6日 晴れのち曇り 第6区間調査 12:00~23:22

AM9:44  K先生より「現地の様子は?」との℡あり。昨夜までの♀達の様子を説明。
K先生が「今日、明日、明後日の産卵確率は80%と思われるから、すぐ支度をして現地に行く。20mを2人で観察。予備として1人必要」と言われたので、広大博のS先生・市教委ほかに連絡。広大院生Sさん(~PM5:00)と 道の駅合流を約して出発。

PM0:15  K先生が現地に着く。当初3名で巣穴と思われる場所が良く見渡せるように、左岸の「巣穴」(この時点では、まだ産卵巣穴であることは確定していなかった。)周辺の枯れ木、灌木、草などを間引く。右岸の観察場所も同様にした。3名が配置。午後1時過ぎ会員のU氏参加(~PM4:00)。左岸に2名SさんとUさん。右岸に2名KさんとT。さらに今後参加できそうな人に電話連絡。

PM1:45  待つこと1時間半、ついにオオサンショウウオが巣穴の上手に出現(Sさん発見)。左後肢にある特徴的な新しいキズから「キズチャン」と名付ける(120905-2♀と判断。チップNo.392145000035142 写真1,2)。左岸沿いに数m下る。岸は草木でオーバーハング状になっており、その下のくぼみか穴?の前で攻撃を受けたらしく、「バシャッ」という水音を確認(1:47~50、攻撃した個体は未確認)。さらに60cm程度下る。

PM1:52  キズチャン♀が「巣穴」(後にシミズクンイヤと命名)にためらわず入る。
攻撃なし。

PM2:15、2:32、2:46、3:33  穴からオオサンショウウオが息継ぎにでた。“ヌシ”で「シミズクン」と名付けた(後日、120830-2♂と確認。チップNo.392145000056086)。

PM2:53  巣穴入り口付近で水の濁りを確認。その濁りは間もなく消える。巣穴の中で産卵が行われたようだ(K先生)。

PM3:58  ヌシ入口付近に出るが戻る。

PM4:05  2度目の濁り確認。再度産卵されたようだ(K先生)。

PM4:07  キズチャン♀が巣穴から出てきたところを捕獲・計測(全長61センチ、体重1.95㎏。前日は1.75㎏なので、なぜか200g増加)。2筋の卵索が総排泄孔から出ているのを確認し、産卵したと判断した(写真3,4)。計測時、口から2個の卵を吐出。放流時にも2個吐出。合計4個の卵を確認した(写真5,6)。

PM4:40  放流直後、どこからかオオサンショウウオが現れて、キズチャンを追いかけ、右岸の石垣に逃げ込んだキズチャンのしっぽに噛みついて攻撃(写真7~10)。石垣の中で喧嘩、水濁る(写真11,12)。
直後に1m下流側の石の隙間からキズチャンが出てきて上流部に逃げた(写真13)。

PM4:53  攻撃した個体を捕獲計測(♀120830-1チップNo.392145000020880 。体重は1週間前の8月30日に比べ-200gで、尾びれに新しい傷があった。放流(写真14)。

PM7:00  水温:22.8℃ メンバーが集まって、今後の相談。

PM11:22  その後産卵行動はなく、本日の調査を終了し、解散。

◎産卵行動を確認、卵の採取、♀同士の闘争が見られたなど予想外の大きな成果。
2012年度に、広島県内で自然巣穴での産卵が確認されたのは「ここ(向谷の産卵巣穴)だけ」とのこと。ここでの産卵日は9月4日、5日、6日、7日の間と判断した。
産卵後のメスは10日間ぐらい岩陰で眠るそうだ。S先生が脱力状態のメス(産卵後6~7時間後のキズチャン)を上流で確認、卵索再確認。

考察
個体番号120830-1のメスが産卵直後のキズチャン(個体番号120905-2)をなぜ攻撃したのか?まず、この2匹の通常の生息巣穴がどこなのか明らかにする必要がありそうである。
しかし、現時点ではデータが少なく、多分に推測が多いのだが考えを進めたい。今までの調査から、この2匹は私達が「第6区間」と呼んでいる河上堰(ごうじょうぜき)上流のどこかに生息しており、今回産卵期移動のため産卵巣穴(シミズクンイヤ)に集まっていたものである。

キズチャンが産卵巣穴に入る直前、巣穴の上流側の水音は誰かに攻撃され逃げようとしたことから発生したものであろう。状況から、そこにいたのは120830-1のメスである可能性が高い。
また、キズチャンから採集した4個の卵は、水をしっかり吸収して円球だったことから産卵直後のものではない。この産卵巣穴で数時間前、もしくは前日夜に産卵されたものであり、キズチャンのものではないと考えてもいいだろう。では、誰の卵か?ということになるが、120830-1の捕獲位置、体重の減少、他に周辺にメス個体が見つかっていないことから考えて120830-1の卵と考えるのが順当であろう。
さらに産卵直後のキズチャンの体重増加(+200g)は何を意味するか?120830-1の体重は-200gであったことから、キズチャンもそれなりの体重減少があるはずである。しかし、実際は200g増加していた。この増加の理由は巣穴にあった相当数の卵がキズチャンによって食べられ、そのため体重増加につながったかもしれない。
キズチャンが放流された直後、120830-1は下流側のどこからか出現しキズチャンの後を追跡し、それを察したかのようにキズチャンは逃げ、石垣の中に潜り込んでしまった。そしてキズチャンの尻尾に噛みついたようで水紋ができ、水が強く濁った。
キズチャンは石垣の中を下流側に逃げ、石垣から出て本流に戻り、上流側に逃げて行った。
120830-1の攻撃は単なる出会い頭の突発的な攻撃ではなく的確かつ執拗で、明らかにメスによるメスへの攻撃であった。

安佐動物公園による北広島町松歳川等での数度の自然産卵行動の観察では、一度もメスからメスへの攻撃は観察されておらず、これは新知見である。また、自然巣穴でのメスの食卵の確認も重要な知見である。なお、これ以降2014年5月まで、120830-1の捕獲データは8件ほど集まっているがキズチャンの再捕データは1件のみである。以上、報告しておく。  (2015.6.25記す)

なお、この原稿は東広島市自然研究会会報47号(平成28(2016)年3月31日発行)に掲載されました。

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