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龍王山のトンボ

みんなの広場

龍王山のトンボ

福永みちる

 東広島市西条町側の龍王山の一角は、「憩いの森公園」に遊戯施設や、キャンプやバーベキューのための設備、セミナーハウスなどが完備され、多くの方で賑わっています。ふもとから頂上にあがる道路やそのほかの散策道もよく整備されており、自然環境も豊かなため、生き物や植物などの観察にもってこいの山だと思います。ほとんどの散策道は広葉樹、照葉樹、針葉樹の入り混じった雑木林の中につくられており、林縁では鳥や昆虫などいろいろな生き物が見られます。大小の渓谷があり、森の奥からは半尾川の上流となる渓流も流れ、砂防ダムの連なるふもとには湿地を作っています。さらに、キャンプ場奥にある開けた明るい草原状の丘やいくつかある造成の池なども、いろいろな生き物たちの休憩、生息場所となっています。
 トンボは、その一生のすべて、または、ほとんどを水と関わりあって過ごします。幼虫時代は水中で育ったトンボも、羽化してしばらくの未熟な間は、水辺から離れ、生まれた場所の近くの雑木林や草はらなどに移って過ごすものも多くいます。
 ここでは、龍王山(おもに憩いの森公園)とふもとにある行貞池、さらにその周辺の田んぼで見られたトンボたちを紹介します。自身が龍王山で確認しているトンボは、2013年3月現在で32種類です。ここでは、自身が見たことや感じたことをおもに主観で書いていますので、そのあたりはどうぞご了承くだされば幸いです。


1,キイトトンボ Ceriagrion melanurum Selys,1876 (イトトンボ科)
成虫が見られる時期:5~9月 体長:40ミリ前後
体全体が黄色いので、他のイトトンボとはすぐに見分けができます。「憩いの森公園」のキャンプ場にある池ではよく見られます。

1.キイトトンボ(連結産卵ペア)2008.7.3.jpg

2,ホソミイトトンボAciagrion migratum (Selys,1876) (イトトンボ科)
成虫が見られる時期:初夏~翌初夏 体長:40ミリ前後
雑木林にはさまれた散策道で♂が1匹見られました。折れそうなぐらい体が細いイトトンボで、池や湿地の周りでよく見られます。

2.ホソミイトトンボ(オス) 2006.7.28.jpg

3,クロイトトンボ Paracercion calamorum calamorum (Ris,1916)(イトトンボ科)
成虫が見られる時期:4~9月 体長:35ミリ以下
オスは腹部が黒っぽく、先のほうが青い色をしていて、メスは体が緑色をしています。憩いの森公園キャンプ場の池やふもとの行貞池でも生息しています。写真は行貞池で見られたメスです。

3.クロイトトンボ(メス) 2007.8.2.jpg

4,モノサシトンボ Copera annulata (Selys,1863) (モノサシトンボ科)
成虫が見られる時期:6~9月 体長:45ミリ前後
イトトンボに似ていますが、イトトンボの仲間より一回り大きいトンボです。オスの体色は水色で、メスは緑色です。憩いの森公園キャンプ場の池やその周辺でよく見られます。

4.モノサシトンボ(オスメスの連結)2011.7.21.jpg

5,オオアオイトトンボ 成虫が見られる時期:6~11月 体長: 50ミリ以下 (アオイトトンボ科)
秋になるとよく見られるようになります。翅を開いてとまるのが特徴で、胸の周りは、金属光沢のような緑色に輝く色をしています。

5.オオアオイトトンボ(オス) 2011.10.6.jpg

6,オツネントンボ Sympecma paedisca (Brauer,1877) (アオイトトンボ科)
成虫が見られる時期:年間を通して(冬季はほとんど見ない) 体長:40ミリ以下
体の細いイトトンボの体型で、体色は淡い褐色をしています。トンボの仲間は卵や幼虫(ヤゴ)で越冬しますが、オツネントンボは、成虫で越冬します。そのため、冬季でも雑木林周辺で木の葉や枝上などにとまっているのを見かけることがあります。またキャンプ場の池でも見ることがあります。

6.オツネントンボ(オス) 2009.2.15.jpg

7,アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa Selys,1853 (カワトンボ科)
成虫が見られる時期:4~7月 体長:65ミリ以下
体色は、オスは金属光沢のある緑色、メスは銅色をしており、オスもメスも成熟すると体に白い粉を生じます。オスの翅には橙色タイプと無色透明のタイプがあり、龍王山では両方見られます。4月末~5月にかけて、憩いの森公園内の渓流の流れている場所で、流れのそばの草の葉先などにとまってオスが縄張りを作っているのがよく見られます。

7.アサヒナカワトンボ(橙色翅型オス)2007.5.21.jpg

8,ムカシヤンマ Tanypteryx pryeri (Selys,1889) (ムカシヤンマ科)
成虫が見られる時期:4~7月 体長:70ミリ前後
大型でがっしりした体つきのトンボです。トンボのヤゴの多くは、川や池沼、湿地など水中に住んでいますが、ムカシヤンマのヤゴだけは、山肌の水が染み出した斜面や小さな流れの斜面などで、湿ったミズゴケなどにおおわれた場所にトンネルを掘ってその中に住んでいます。おっとりしたトンボで、人間の服やバックなどにとまることもよくあります。体を密着させ張りつくようにとまるのがムカシヤンマの特徴です。龍王山では、憩いの森公園のキャンプ場周辺で、木の肌や地面などにとまっているのを見たことがあります。

8.ムカシヤンマ(メス) 2006.6.3.jpg

9,ヤマサナエ Asiagomphus melaenops (Selys,1854) (サナエトンボ科)
成虫が見られる時期:4~7月 体長:65ミリ前後
サナエトンボの仲間はみな、黒と黄色の縞模様のあるトンボたちです(オニヤンマは別にオニヤンマ科のトンボです)。ヤマサナエは、山地に普通に見られるサナエトンボの一種です。渓流沿いの葉上などによくとまっています。渓流の底を網などでさぐると、ヤゴも見つかります。

9.ヤマサナエ(メス) 2006.7.11.jpg

10,ダビドサナエ Davidius nanus (Selys,1869) (サナエトンボ科)
成虫が見られる時期:4~7月 体長:45ミリ以下
サナエトンボの中では小型種で、ほっそりとした体形をしています。ダビドサナエも龍王山の渓流付近ではよく見られます。

10.ダビドサナエ(オス) 2006.5.20.jpg

11,ヒメクロサナエ Lanthus fujiacus (Fraser,1936) (サナエトンボ科)
成虫が見られる時期:4~6月 体長:40ミリ前後
サナエトンボの中では小型種で、ほっそりとした体形をしています。ダビドサナエなど、ほかの小型のサナエトンボとよく似ていますが、胸部側面の黒い筋模様の形状の違いで判別します。春に、龍王山の渓流で草の茎につかまって羽化している個体を見たことがあります。

11.ヒメクロサナエ(羽化直後メス)2009.4.16.jpg

12,オナガサナエOnychogomphus viridicostus (Oguma,1926) (サナエトンボ科)
成虫が見られる時期:6~9月 体長:60ミリ前後
名前の通り、オスの腹部の先が他の種より長くて特異な形になっているのが特徴です。夏の盛り、龍王山の頂上にあがるコンクリート道路で、道路にとまるメスを見たことがあります。近くの川で羽化したものがそこまで飛んできたのだろうと思います。

12.オナガサナエ(メス) 2006.8.10.jpg

13,コオニヤンマSieboldius albardae Selys,1886 (サナエトンボ科)
成虫が見られる時期:6~9月 体長:85ミリ前後
日本のサナエトンボの中でもっとも大きい種です。名前はコオニヤンマですが、オニヤンマよりやや小さい程度で、実物を見るとけっこう大きい感じがします。龍王山では渓流付近で石などにとまっているのをよく見かけます。

13.コオニヤンマ(オス) 2006.6.19.jpg

14,オニヤンマ Anotogaster sieboldii (Selys,1854) (オニヤンマ科)
成虫が見られる時期:6~10月 体長:オス100ミリ前後、メス110ミリ前後
オニヤンマは日本最大のトンボです。山道を単独で行ったり来たりする習性もあるようで、よくそういう場面にあいます。そうやって飛んでいたものが、次第に速度を緩めたかと思うと、あっちの枝、こっちの枝と迷うようにしながら飛び、そのうち安定した場所を見つけると、道端の小枝などにとまり、ぶら下がって休みます。メスは単独でごく浅い水流や水たまりなどに、飛びながら上下運動を行うように、泥土のなかに卵を産みつけます。近くにいるとブンブンと羽音がしてすごい迫力です。

14.オニヤンマ(オス) 2006.9.11.jpg

15,サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin,1909) (ヤンマ科)
成虫が見られる時期:4~6月 体長:65ミリ前後
黒色と黄色の筋模様、腹部には楔形の模様もあり、これが更紗模様と言われています。あまり多くないヤンマで、おもに湿地に生息しますが、龍王山では、ふもとの行貞池で交尾しているペアを観察しました。

15.サラサヤンマ(交尾) 2007.6.26.jpg

16,アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys,1883 (ヤンマ科)
成虫が見られる時期:5~8月 体長:70ミリ前後
円筒型の体型です。緑色の体色が鮮やかで美しいヤンマです。アオヤンマもあまり多くないと言われています。ヨシやガマの茂る池を好み、龍王山ではふもとの行貞池で、たくさんいるコシアキトンボを捕えて食べているのを観察しました。

16.アオヤンマ(捕食) 2007.7.5.jpg

17,ルリボシヤンマ Aeshna juncea juncea (Linnaeus,1758) (ヤンマ科)
成虫が見られる時期:7~10月 体長:85ミリ前後
黒褐色の地に、腹部には黄緑や水色の複雑な模様のある美しいヤンマです。東広島市では山地の湿地や水たまり、周りを樹木で囲まれたような比較的浅い薄暗い池などでヤゴが見つかります。生息地の湿地では、オスが翅をはばたかせながら一定空間に静止して飛ぶ(ホバリング飛翔)のがよく見られます。龍王山では、散策道を歩いていた時、そばに来て一瞬だけホバリングして去って行ったオスを目撃したことがあります。憩いの森公園内のキャンプ場の池の上でホバリングしているヤンマを夕暮れ、何度か目撃しているので、これがルリボシヤンマではないかと思っていますが、確認はできていません。

17.ルリボシヤンマ(オス) 2009.9.23.jpg

18,マルタンヤンマ Anaciaeschna martini (Selys,1897) (ヤンマ科)
成虫が見られる時期:5~9月 体長:75ミリ前後
成熟したオスは青い複眼などからとても美しいヤンマと言われています。オスは夕方空の高いところを飛ぶ習性がありますが、それ以外ではなかなか目にする機会がないと言われます。龍王山では、頂上にあがる山道の途中、道路わきの木の枝にぶら下がってとまっていたメスを見たことがあるだけです。

18.マルタンヤンマ(メス) 2006.7.28.jpg

19,クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus nigrofasciatus Oguma,1915(ヤンマ科)
成虫が見られる時期:4~8月 体長:75ミリ前後
よく知られたギンヤンマに似ていますが、腹部が青いまだら模様で、胸部側面に黒い筋が2本あります。憩いの森キャンプ場の池ではギンヤンマと混生していますが、両種はすみわけをしているようです。

19.クロスジギンヤンマ(メス産卵)2007.5.6.jpg

20,ギンヤンマ Anax parthenope julius Brauer,1865 (ヤンマ科)
成虫が見られる時期:4~11月 体長:75ミリ前後
ヤンマの仲間では珍しく、オスとメスが連結して産卵を行います。憩いの森公園の池でもよく見られる普通種です。

20.ギンヤンマ(オス) 2006.5.28.jpg

21,シオカラトンボ Orthetrum albistylum speciosum (Uhler,1858) (トンボ科)
成虫が見られる時期:4~10月 体長:55ミリ前後
日本でもっともなじみ深いトンボかもしれません。メスの体は塩を吹いたようなにはならず、体色も黄褐色で「むぎわらトンボ」と呼ばれます。龍王山でも、春から初秋まで憩いの森公園周辺その他でよく見られます。

21.シオカラトンボ(羽化直後) 2006.6.3.jpg

22,オオシオカラトンボ Orthetrum triangulare melania (Selys,1883) (トンボ科)
成虫が見られる時期:5~10月 体長:55ミリ前後
シオカラトンボよりがっしりした感じがします。オスの体は青みが、メスは腹部の黄色みが強く見えます。翅の付け根に黒い紋があります。憩いの森公園の池や山道などでも見られます。

22.オオシオカラトンボ(交尾)2007.7.24.jpg

23,ショウジョウトンボ Crocothemis servilia mariannae (Kiauta,1983) (トンボ科)
成虫が見られる時期:4~10月 体長:50ミリ前後
オスは成熟すると複眼まで含めて真っ赤になり、とても美しいトンボです。体の色は赤いですが、赤とんぼ(アカネトンボ)の仲間ではありません。憩いの森公園の池でよく見られ、メスが飛びながらときどき水面にチョンチョンとお尻をつけて産卵するのが見られることもあります。

23.ショウジョウトンボ(オス) 2007.9.10.jpg

24,ナツアカネ Sympetrum darwinianum (Selys,1883) (トンボ科)
成虫が見られる時期:6~12月上旬 体長:40ミリ以下
赤とんぼの仲間です。オスは成熟すると複眼や顔面まで全身が真っ赤になります。龍王山周辺でもよく見られる普通種で、特に秋季になると赤く成熟したナツアカネをあちこちで見ることができます。

24.ナツアカネ(オス) 2007.9.10.jpg

25,アキアカネ Sympetrum frequens (Selys,1883) (トンボ科)
成虫が見られる時期:6~12月上旬 体長:40ミリ前後
赤とんぼの仲間です。成熟したオスは体が赤くなりますが、複眼までは赤くなりません。よく似たナツアカネに比べ見かける回数は少なく、龍王山でも年に数度見かけるぐらいです。

25.アキアカネ(メス) 2003年.jpg

26,マユタテアカネ Sympetrum eroticum eroticum (Selys,1883) (トンボ科)
成虫が見られる時期:6~11月 体長:40ミリ以下
ナツアカネやアキアカネに比べるとやや細身で華奢な感じがする赤とんぼです。顔面には眉状の紋があり、名前の由来になっています。メスの翅には透明なタイプと翅先だけが褐色のタイプがいます。龍王山でもよく見られる普通種です。

26.マユタテアカネ(褄黒翅型メス)2006.9.26.jpg

27,ヒメアカネSympetrum parvulum(Bartenef) (トンボ科)
成虫が見られる時期:6~11月 体長:35ミリ以下
池や湿地の周りで見られる、赤とんぼの中では小型の可愛らしいトンボです。写真は、ふもとの山陽自動車道の側道わきの葉上にとまっていました。

27.ヒメアカネ(半成熟メス) 2011.9.jpg

28,ノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys,1883) (トンボ科)
成虫が見られる時期:6~11月 体長:45ミリ前後
赤とんぼの仲間です。翅のつま先が褐色をしています。ややがっしりした印象の、龍王山周辺ではよく見られるトンボです。

28.ノシメトンボ(メス) 2007.9.10.jpg

29,コノシメトンボ Sympetrum baccha matutinum ( Ris,1911) (トンボ科)
成虫が見られる時期:7~11月 体長40ミリ前後
赤とんぼの仲間です。翅のつま先が褐色をしています。ノシメトンボに似ていますが、胸部側面の黒い筋模様の違いで区別できます。ノシメトンボより見かけることが少ないトンボですが、龍王山周辺では比較的よく見られます。

29.コノシメトンボ(メス) 2006.8.28.jpg

30,キトンボ Sympetrum croceolum (Selys,1883) (トンボ科)
成虫が見られる時期:6~11月 体長:45ミリ前後
赤とんぼの仲間です。体全体がオレンジ色をしていて、翅の上縁はより濃い鮮やかなオレンジ色です。がっしりして太身のトンボで、龍王山周辺の池でよく見られます。龍王山でも第二展望場など、やや小高い場所で石などにとまっている姿を秋季になるとよく見かけるようになります。

30.キトンボ 2007.11..jpg

31,コシアキトンボ Pseudothemis zonata (Burmeister,1839) (トンボ科)
成虫が見られる時期:5~10月 体長:45ミリ前後
オスの腰のあたりには白い部分があり、よく目立ちます。メスのこの部分は黄白色で形も微妙に違います。龍王山ではふもとの行貞池で多く、憩いの森公園のキャンプ場の池でも見られます。

31.コシアキトンボ(メス) 2006.6.26.jpg

32,ウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius,1798) (トンボ科)
成虫が見られる時期:4~10月 体長:50ミリ前後
体色は黄色がかったオレンジ色で、体のわりに翅が大きいのが特徴です。憩いの森公園のキャンプ場の広場では夏、群飛しているのを見たことがあります。ときには木枝などにとまって休んだりしています。

32.ウスバキトンボ 2006.8.28.jpg


・引用文献 山口県のトンボ(2006、山口県立博物館)

東広島の自然(2013.3)No.44

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