絶滅危惧種の調査
絶滅危惧種の調査
大繁 一味
2007年度動植物調査
はじめに
アリアケスミレの撮影は、今から10年前に、この花の自生地の傍を偶然通りかかり見つけて撮影したのが始まりでした。今までは、花姿の撮影が主でしたが、花弁の色の違いに気がつき、色別個体数の調査を実施しました。
絶滅危惧種の調査は今年で13年目に入ります。今回は、自分が知っていた自生地に加えて、新たに発見した自生地を調査しました。自生地保護のため、地名はあえて書きません。ご了解ください。
◎アリアケスミレ自生調査 4月15日実施
* アリアケスミレ(スミレ科)・・・“有明の空の色”になぞらえてつけられた名前。温暖な地方の耕作地の周辺、河川敷などに生える。水田のあぜのような日当たりの良い湿り気のある場所を好む。(写真1)
写真1
東広島市南西部にある田園地帯でアリアケスミレの自生調査を実施した。その結果、アリアケスミレ(白色型)(写真1ー1)が131株、アリアケスミレ(濃紅色型)(写真1ー2)が34株、アリアケスミレ(淡紅色型)(写真1)が4株あった。一カ所で3タイプ見られるのは珍しく、年によって増減が見られるので、これからも定点観測を続けデーターを集めたい。
写真1-1
写真1-2
本年度絶滅危惧種調査
◎トキソウ・イシモチソウ自生調査
*トキソウ(ラン科)・・・山地の日当たりの良い湿地に見られる多年草。花の色が朱鷺色をしていることからトキソウと名が付いた。美しいゆえに乱獲が絶えず、自生地が減っている。
広島県RDBで絶滅危惧Ⅱ類(VU),環境省レッドリスト(2007年8月3日改訂)で準絶滅危惧(NT)に指定されている。(写真2)
写真2 トキソウ
*イシモチソウ(モウセンゴケ科)・・・日当たりの良い湿地に見られる多年生の食虫植物。広島県RDBで絶滅危惧Ⅱ類(VU)、環境省レッドリスト(2007年8月3日改訂)で準絶滅危惧(NT)に指定されている。(写真3)
写真3 イシモチソウ(葉)
イシモチソウ(花)
~八本松地区~
・第1地点 6月5日実施
トキソウが4株自生していた。過去の調査でも4株確認している。
湿地は工業団地の外れの谷間にある。他の植物が茂り、遷移が進んでいる。近い将来湿地が無くなる可能性がある。
・第2地点 6月5日実施
トキソウが4株自生していた。ため池の堰堤工事の影響で湿地の一部が水没。近隣にあったイシモチソウ自生地も水没していて、壊滅状態になっている。
・第3地点 6月5日実施
第2地点から移動藪こぎをして今回初めて訪れた湿原。池と池の間の湿原でイシモチソウ100株を確認、トキソウも21株確認した。ハッチョウトンボも見られた。モウセンゴケを多数見つけた。湿地の状態は他の植物もあまり繁茂しておらず良好であった。
*ハッチョウトンボ(トンボ科)・・・日本最小のトンボでミズゴケのある湿地に定着する。広島県RDBで絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されている。(写真4)
写真4 ハッチョウトンボ
~西条地区~
・第4地点 6月5日実施
今回初めて訪れた湿地。池の南側の湿地でトキソウ70株の群生を発見。アギナシも4株確認した。湿地の状態は良好であるが、民家に近いため、釣り人の侵入によって湿地が踏み荒らされるおそれがある。
*アギナシ(オモダカ科)・・・水田や湿地に見られる多年草で水田の雑草として知られる。環境省レッドリスト(2007年8月3日改訂)で準絶滅危惧(NT)に指定されている。(写真5)
写真5 アギナシ
・第5地点 6月10日
先日訪れた湿地のある池の北側堰堤下。わずかに広がる湿地にトキソウが29株自生していた。湿地の状態は悪く、笹が茂り乾燥化が進んでいる。
・第6地点
他の植物が茂り過ぎ、湿地は壊滅状態であった。
・第7地点 6月10日実施
頂上湿地にてトキソウ7株を確認。その他モウセンゴケ(写真6)、ツボスミレ、近隣でシソバタツナミ(写真7)、ノアザミ、ササユリを見つけた。
写真6 モウセンゴケ
写真7 シソバタツナミ
~高屋地区~
・第8地点 6月16日実施
トキソウの自生は確認出来なかったがモウセンゴケを多数見つけた。ハッチョウトンボも見られた。湿地の状態は良好。
◎サギソウ自生調査
*サギソウ(ラン科)・・・日当たりの良い湿地に自生する多年草。開発や乱獲で減少している。広島県RDBで絶滅危惧Ⅱ類(VU)、環境省レッドリスト(2007年8月3日改訂)で準絶滅危惧(NT)に指定されている。(写真8)
写真8 サギソウ
*キキョウ(キキョウ科)・・・山地に生える多年草。近年減少している。広島県RDB、環境省レッドリスト(2007年8月3日改訂)共に絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されている。
~西条地区~
・第1地点 8月14日実施
サギソウ40株、アギナシ4株を確認した。その他にミミカキグサ(写真9)、ホザキノミミカキグサ(写真10)、サワヒヨドリ(写真11)、ワレモコウ、コイヌノハナヒゲ、サワシロギク、オオシオカラトンボ(写真12)、オニヤンマ、チョウトンボを見つけた。
写真9 ミミカキグサ
写真10 ホザキノミミカキグサ
写真11 サワヒヨドリ
写真12 オオシオカラトンボ
・第2地点 8月14日実施
湿地が他の植物に覆われて確認出来ず。
・第3地点 8月14日実施
今回初めて訪れた場所。山の谷を下った池のたもとにある湿原でサギソウ140株、アギナシ4株、キキョウ12株を確認した。その他にユウスゲ、ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ、オトギリソウ(写真13)、クズ、マツヨイグサ、オオシオカラトンボ、キイトトンボ(写真14)、チョウトンボ、ツマグロヒョウモン(写真15)が見られた。湿地の状態は良好。
写真13 オトギリソウ
写真14 キイトトンボ
写真15 ツマグロヒョウモン
~八本松地区~
・第4地点 8月14日実施
6月にトキソウ4株確認した湿地でサギソウ1株を発見。湿地が他の植物に覆われつつあり、近い将来、自生地が消滅する可能性がある。その他にコバギボウシ、サワシロギクが見られた。
・第5地点 8月14日実施
6月にトキソウ4株を確認した湿地。しかし、湿地が他の植物に覆われてサギソウの確認は出来ず。かつてコバノトンボソウの自生を確認していたが再発見には至らなかった。その他の植物はコバギボウシ、サワシロギクが見られた。
・第6地点 8月14日実施
第5地点から移動して6月にイシモチソウとトキソウの自生地を見つけた湿地。サギソウ18株、キキョウ92株を確認。その他にワレモコウ、サワシロギク、オミナエシ、ミミカキグサ、キイトトンボを確認した。湿地の状態は一部他の植物が茂っているが良好である。
・第7地点 8月14日実施
ため池の傍の湿原でサギソウ43株、キキョウ20株を確認。その他にコバギボウシ、ヘラオモダカ、ユウスゲ、ヒメシロネ、サワシロギク、オオシオカラトンボ、キイトトンボを見つけた。昨年度はヌマトラノオ、ギンヤンマも見られた。
~高屋地区~
・第8地点 8月15日実施
山中のため池堰堤でキキョウ20株その他にオミナエシ、キンミズヒキ、アキノタムラソウ、オオシオカラトンボ、チョウトンボを見つけた。
・第9地点 8月15日実施
第8地点からさらに奥地に入ったため池の畔に広がる湿原。数えきれないほどのサギソウとアギナシが群生していた。その他にサワシロギク、ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ、ハッチョウトンボ、キイトトンボ、オオシオカラトンボ、を見つけた。かつて見られたコバノトンボソウ、ミズトンボ、ムラサキミミカキグサは再確認出来なかった。湿地はかなり他の植物に覆われてきている状態。
~西条地区~
・第10地点 8月16日実施
6月にトキソウ7株を確認した頂上湿地でサギソウ1株を発見。その他にキンミズヒキ、ツマグロヒョウモン、オオシオカラトンボが見られた。
・第11地点 8月16日実施
休耕田に出来た湿地でサギソウ3株を確認。その他にミミカキグサ、ホザキノミミカキグサを見つけた。湿地の乾燥化が進んでいる。
~志和地区~
・第12地点
ため池の傍にある小さな湿地でサギソウ1株を見つけた。昨年見られたコバノトンボソウは再確認出来なかった。湿地が踏み荒らされ、荒れていた。
おわりに
科学情報誌「ニュートン」(2007年12月号、P126-127)に、比治山学園天文地学部の越智秀二さん(当会員)の記事が掲載されています。3年前、私たちが訪れた同学園からまつ学寮とシラヒゲソウの調査、研究の記事です。それには、当時のエピソードとともに、「メンバーの一人がシラヒゲソウを指摘した。」と書かれています。あの時の私の指摘、説明がきっかけとなり、この花の調査、研究が今まで続行されてきました。そのことを知り正直驚きました。
きっかけを作った者として、このシラヒゲソウの調査、研究が実り多きものになることを願っています。
東広島の自然(2007.12)No.39 掲載
2008年度動植物調査
はじめに
昨年に引き続き今年も大規模な調査を慣行しました。今回から昨年度との増減を中心にまとめています。
今年は東広島市北部地域にも調査に行きました。
なお、自生地保護のため、地名はあえて載せていませんのでご了承ください。
◎アリアケスミレ自生地調査
4月21日実施
2007年 | 2008年 | 増減 | |
---|---|---|---|
白色型 | 131株 | 134株 | 3株増 |
淡紅色型 | 4株 | 17株 | 13株増 |
濃紅色型 | 34株 | 52株 | 18株増 |
今回は自然観察会の際に同時進行で個体数調査をしました。今年は3種ともに増加していました。
本年度絶滅危惧種調査
◎トキソウ・イシモチソウ自生調査
~八本松地区~
・第1地点 5月31日実施
湿地は工業団地の外れの谷間にある。昨年より荒廃が進みトキソウは昨年4株でしたが今年は2株しか確認できなかった。
・第2地点 5月31日実施
昨年は4株の自生を確認していたが今年は茂り過ぎによる自生地壊滅により、1株も確認できなかった。
・第3地点 5月31日実施
前回イシモチソウ100株の群落が見られたが今年は53株と半減していた。トキソウは21株から15株と減少していた。
~西条地区~
・第4地点 5月31日実施
昨年トキソウ70株を確認した湿地ですが今年は盗掘にあったらしく1株も確認できず、アギナシも昨年4株確認できていたが今年は1株も見られなかった。
・第5地点 5月31日実施
第4地点の北側ため池畔の小湿地。昨年はトキソウ29株確認できましたが、今年は笹原が池の際まで進出して自生地が消えていた。昨年調査した第6~8地点は時間が取れず未調査。
◎サギソウ自生調査
~八本松地区~
・第1地点 8月15日実施
工業団地外れの湿地。昨年度と同じく1株しか見つからなかった。
・第2地点 8月15日実施
昨年は18株確認しましたが今年は1株も見つからなかった。新たにツクシクロイヌノヒゲを多数発見しました。ハッチョウトンボとトノサマガエルも見つけました。キキョウは昨年は92株でしたが今年は25株と激減していた。
*ツクシクロイヌノヒゲ(ホシクサ科)
ため池の干上がったところにある湿地に自生する1年草。環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)に指定されている。
・第3地点 8月15日実施
昨年は43株確認しましたが今年は3株に激減、キキョウについては昨年20株、今年は25株見つかった。
・第4地点 8月15日実施
第3地点から東へ1キロ行った谷間の湿地で新たなサギソウの群落を見つけました。22株確認しました。
~西条地区~
・第1地点 8月16日実施
8月24日の自然観察会の下見で、頂上湿地を調査。昨年は1株でしたが今年は26株確認でき、24日にはさらに4株確認しています。
・第2地点 8月17日実施
昨年度は40株確認できたが、今年は3株しか確認できなかった。
・第3地点 8月17日実施
昨年は140株の群落でしたが今年は54株に減少していた。アギナシは昨年4株でしたが、今年は2株でした。
キキョウは昨年12株でしたが、今年は1株も見つかりませんでした。
・第4地点 8月17日実施
新たに第3地点の北側に自生地を発見、調査の結果、サギソウ25株、タチモ多数を確認しました。
*タチモ(アリノトウグサ科)
貧栄養の湿地やため池、沼、浅い池に生育する多年草。環境省レッドリストで準絶滅危惧(NT)に指定されている。
おわりに
今年は、サギソウの自生地を新たに2か所発見しました。2009年度も継続して自生地探索をしていきたいと思います。なお、東広島市北部方面へ探索範囲を広げるつもりで計画しています。新たな発見ができるよう努力したい。
東広島の自然(2008.12)No.40 掲載