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龍王山の蝶

龍王山の蝶 

福永みちる

いわゆる東広島市西条町「龍王山」と呼ばれている山域は、東広島市西条町、八本松町、高屋町にまたがっています。本稿には西条町寺家地区から吉行地区にかかる「憩いの森公園」付近で見られた蝶を掲載しました。公園内にはキャンプ場が完備されています。頂上への道路や散策道、トイレなどの設備もよく整備されているため、生き物や植物などの観察に大変利用しやすい山です。また、池や渓流、多くの雑木林、展望の開けた丘、針葉樹林内の湿った林道など多様な環境がありますので、その環境に応じた色々な蝶たちを見ることができます。

私が龍王山で確認している蝶は現在38種類ですが、ここに挙げた以外の種を見られている方もきっとおられると思います。本稿は、私が見たことや感じたことをまとめるつもりで書いていますので、そのあたりはどうぞご了承ください。

なお、龍王山で繁殖しているかどうかの確認はできていませんが、付近の山や雑木林などで育った蝶が龍王山で見られることもあろうと考えられますので、それらの種も一緒に掲載しました。

会報「東広島の自然」No.42 2011.3 掲載


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1.アオスジアゲハ.jpg

<アゲハチョウ科>
1.アオスジアゲハ Graphium sarpedon (Linnaeus,1758)
成虫の見られる時期:5~10月 食餌植物:クスノキ、ヤブニッケイ、タブノキ
飛翔がとても敏捷で、吸蜜などで見かけてもあっという間にいなくなる印象があります。龍王山では、頂上にのぼる道路や散策道で木の花で吸蜜する姿をよく見かけます。駐車場のクスノキには幼虫や蛹も見られることがあります。


2.ナミアゲハ.jpg
2.ナミアゲハ Papilio xuthus Linnaeus,1767
成虫の見られる時期:3~10月 食餌植物:カラタチ、イヌザンショウなど
アゲハチョウでは最もよく見られる蝶で、龍王山でもよく見られます。特に、開けた明るい場所でよく見かけるような気がします。花での吸蜜もよく見られます。飛翔は素早く、吸蜜などで見かけてもすぐに飛んで行ってしまいます。


3.キアゲハ.jpg
3.キアゲハ Papilio machaon Linnaeus,1758
成虫の見られる時期:4~10月 食餌植物:ニンジン、パセリなど
山頂に集まる習性があるため、龍王山では少し小高い丘に集まっているのを見ますが、頂上でもこれらの集まってきたキアゲハをよく見られると思います。


4.モンキアゲハ.jpg
4.モンキアゲハ Papilio helenus Linnaeus,1758
成虫の見られる時期:5~10月 食餌植物:ユズ、カラスザンショウなど
龍王山では山の林縁付近で見られることが多いようです。駐車場そばの垣根の花で吸蜜していたのを見たこともあります。


5.クロアゲハ.jpg
5.クロアゲハ Papilio protenor Cramer,[1775]
成虫の見られる時期:4~10月 食餌植物:ユズ、カラタチ、イヌザンショウなど
龍王山ではナミアゲハと並んでもっともよく見られるアゲハチョウで、憩いの森公園の散策道やキャンプ場付近などでも菖蒲類やツツジなどで吸蜜する姿をよく見かけます。イヌザンショウやカラスザンショウで幼虫が
よく見つかりますが、散策道のかんきつ類の葉でも幼虫が見られたことがあります。


6.オナガアゲハ.jpg
6.オナガアゲハ Papilio macilentus Janson,1877
成虫の見られる時期:4~10月 食餌植物:コクサギ、イヌザンショウなど
クロアゲハに比べ、局地的な分布ですが、龍王山にはよく見られます。クロアゲハに比べ、翅が細長く、尾状突起が長く、全体的にきゃしゃな感じがするアゲハです。龍王山ではイヌザンショウで幼虫を見かけます。


7.ナガサキアゲハ.jpg
7.ナガサキアゲハ Papilio memnon Linnaeus,1758
成虫の見られる時期:5~10月 食餌植物:ミカン、ユズなど
もともとは広島県にはいなかったが、近年、急速に分布を広げており、広島県でも見られるようになったチョウです。他のアゲハチョウと違い、尾状突起がないのが特徴です。メスの後翅には白い紋があり、この白紋の大きさには個体差があります。龍王山では、ふもとの山陽道の側道で見かけることが多いほか、散策道でも見たことがあります。


8.ミヤマカラスアゲハ.jpg
8.ミヤマカラスアゲハ Papilio maackii Ménétriès,1858
成虫の見られる時期:4~10月 食餌植物:カラスザンショウ、キハダ
龍王山ではおもにカラスザンショウで繁殖していると思われます。水の染み出したような場所に吸水にきているのを見ることがありますが、全体的に見かけることの少ないチョウです。


9.キチョウ.jpg
9.キチョウ Eurema hecabe (Linnaeus,1758)
成虫の見られる時期:5~翌年4月 食餌植物:ネムノキ、メドハギなど
広く分布し、普通種であるため、龍王山でもよく見られます。地面などで吸水もよく行い、時には集団になることもあります。成虫で越冬するため、秋遅くまで成虫が見られます。


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10.ツマグロキチョウ Eurema laeta (Boisduval,1836)
成虫の見られる時期:5~翌年4月 食餌植物:カワラケツメイ
龍王山では頂上にのぼる道路でも、わきの草むらなどで見かけることが多く、特に秋季に多数の個体を見たことがあります。キチョウに比べ少ないチョウですが、龍王山では何年もずっと見られています。卵→幼虫→蛹→成虫の1サイクルを年に数回繰り返しますが、秋に羽化するものは、翅が全体的に角ばり、後翅の裏には黒い筋模様が数本斜めに浮き出ます。キチョウと同様、成虫で越冬します。


11.ムラサキシジミ.jpg
11.ムラサキシジミ Anthocharis scolymus Butler,1866
成虫の見られる時期:6~翌5月 食餌植物:アラカシ、コナラなど
よく葉上などにとまり、翅を開いて日光浴をします。龍王山ではよく見られるシジミチョウです。散策道などでも、カシ類の新芽に産まれている卵や幼虫をよく見ることができます。


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12.アカシジミ Japonica lutea (Hewitson,[1865])
成虫の見られる時期:5~7月 食餌植物:アベマキ、コナラ、アラカシなど
なかなか目にすることの少ないゼフィルスの仲間です。龍王山では、カシ類に産卵するメスを見たことがあります。龍王山でも山の林縁などで見られると思います。


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13.ミズイロオナガシジミ Antigius attilia (Bremer,1861)
成虫の見られる時期:6~8月 食餌植物:アベマキ、コナラ、ナラガシワなど
ゼフィルスの仲間のシジミチョウです。山の林縁部などで見かける機会があります。龍王山でも林縁部で何度か見かけたことがありますが、あまり多くは見られません。


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14.トラフシジミ Rapala arata (Bremer,1861)
成虫の見られる時期:4~8月(年2回) 食餌植物:ウツギ、フジ、クズなど
名前の通り、翅裏に虎斑(とらふ)模様を持っている可愛らしいシジミチョウです。春に羽化する春型は、翅の裏が白とグレーのストライプ模様で美しいが、夏に羽化する夏型は、翅裏全体が褐色を帯び、やや別種のようになります。龍王山でも木の花で吸蜜する個体を見たことがあります。


15.ゴイシシジミ.jpg
15.ゴイシシジミ Taraka hamada (H.Druce,1875)
成虫の見られる時期:4~11月 食餌植物:笹などに寄生するタケツノアブラムシなど
幼虫時代はササにつくアブラムシ類を食べ、成虫になってからは、そのアブラムシの出す分泌物を吸って生きるという蝶には珍しい生活をするシジミチョウです。散策道のわきの葉上にとまっていたのを見たことがありますが、龍王山ではあまり見かけません。ササにつくアブラムシ類がいないと発生しないため、ゴイシシジミもアブラムシ類の発生を追いかけて移動すると言われています。


画像の説明
16.ヤマトシジミ Zizeeria maha (Kollar,[1844])
成虫の見られる時期:3~12月 食餌植物:カタバミ
もっともよく見られる蝶のひとつです。龍王山でも暗くじめっとした山の中をのぞいてあちこちで見られます。散策道のわきや草むらなどを低く頼りなげに飛んでいるのを見ます。シジミチョウでは、ベニシジミと並んで、早春から晩秋まで長く成虫が見られます。


17.ルリシジミ.jpg
17.ルリシジミ
成虫の見られる時期:3~10月 食餌植物:ハギ、フジ、クズなど
もっともよく見られる蝶のひとつです。龍王山でもよく見られ、特に、鳥が落としたフンに口吻を差し込み、栄養分を吸う姿をよく見かけます。よく似たヤマトシジミに比べ、活発に飛ぶので、すぐに姿を見失ってしまいます。


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18.ツバメシジミ Everes argiades (Pallas,1771)
成虫の見られる時期:3~11月 食餌植物:ハギ、シロツメクサなど
ヤマトシジミと同様、龍王山でもよく見られるシジミチョウです。散策道やキャンプ場などあちこちで野の花で吸蜜したりする姿を見かけます。後翅の裏の下縁に朱色の紋があり、可愛らしいチョウです。


19.ウラギンシジミ.jpg
<ウラギンシジミ科>
19.ウラギンシジミ Curetis acuta Moore,1877
成虫の見られる時期:6~翌4月 食餌植物:クズ、フジなど
一般のシジミチョウより一回り大きく、翅の裏が白銀色に光を受けて輝くため、飛ぶとよく目立ちます。龍王山でもたくさん生息しているようで、よく見ます。成虫で越冬するため、秋遅くでも葉裏などに潜む成虫を見ます。


20.テングチョウ.jpg
<テングチョウ科>
20.テングチョウ Libythea celtis (Laicharting,1782)
成虫の見られる時期:ほぼ周年 食餌植物:エノキ、エゾエノキ
成虫の顔が、前に細長く突出していて天狗のように見える面白いチョウです。成虫で越冬するため、春早くから前年の越冬した個体を見かけることがあります。龍王山でも時折見かけますが、それほど多くではないです。


21.ウラギンスジヒョウモン.jpg
<タテハチョウ科>
21.ウラギンスジヒョウモン Argyronome laodice (Pallas,1771)
成虫の見られる時期:6~10月(年1回) 食餌植物:スミレ類
翅の模様が「豹」のような紋であることから、○○豹紋(○○ヒョウモン)と呼ばれる蝶の仲間です。あまり多くないチョウですが、龍王山では時折見かけます。


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22.ツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius (Linnaeus,1763)
成虫の見られる時期:3~11月 食餌植物:パンジー、スミレなど
ツマグロヒョウモンも、翅の模様が「豹」のような紋であることから、○○豹紋(○○ヒョウモン)と呼ばれる蝶の仲間です。龍王山でもよく見られます。昔は広島県にはいなかったチョウですが、今ではヒョウモンチョウの仲間ではもっともよく見られるチョウになっています。オスの翅は豹紋柄をしているが、メスの翅は前翅の半分より先(褄)が青みがかった黒色をしています。


23.イチモンジチョウ.jpg
23.イチモンジチョウ Ladoga camilla (Linnaeus,1764)
成虫の見られる時期:5~9月 食餌植物:スイカズラ、タニウツギ
東広島ではあまり見かける機会がないが、龍王山では毎年のように見ます。ウツギなどの花で吸蜜するほか、地面に降りて吸水する姿を見かけます。


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24.アサマイチモンジ Ladoga glorifica (Fruhstorfer,1909)
成虫の見られる時期:5~10月 食餌植物:スイカズラ
龍王山ではよく見かけます。憩いの森キャンプ場周辺で、ウツギやイボタなどの花で吸蜜をするのを見ることも多く、地面に降りて吸水していることもあります。


25.ヒオドシチョウ.jpg
25.ヒオドシチョウ Nymphalis xanthomelas ([Denis & Schiffermüller],1775)
成虫の見られる時期:5~翌4月(年1回) 食餌植物:エノキ、シダレヤナギなど
龍王山では成虫を見たことはほとんどないが、エノキの木に幼虫が見られるため、龍王山で繁殖しているのは間違いありません。成虫で越冬します。


26.ルリタテハ.jpg
26.ルリタテハ Kaniska canace (Linnaeus,1763)
成虫の見られる時期:6~翌4月 食餌植物:サルトリイバラ、ホトトギス
龍王山でもよく見られます。頂上にのぼる道路や散策道などでよく見かけ、ときには道路の上に翅を広げてとまっていることもあります。成虫のほかにも、サルトリイバラでは幼虫がよく見られます。成虫で越冬します。


27.ヒメアカタテハ.jpg
27.ヒメアカタテハ Cynthia cardui (Linnaeus,1758)
成虫の見られる時期:4~11月 食餌植物:ヨモギ、ハハコグサなど
ヒメアカタテハも山頂で縄張りを張る性質があるようで、龍王山では、少し小高い場所で見ます。山頂に行くと、山頂でも縄張りを張っていると思われます。


28.コムラサキ.jpg
28.コムラサキ Apatura metis Freyer,[1829]
成虫の見られる時期:5~10月 食餌植物:シダレヤナギ、カワヤナギなど
龍王山のふもとの小渓流に生えるヤナギで幼虫を見たことがあります。その他、そばの池のヤナギでも成虫を見かけるため、周辺には広く生息しているものと思われます。


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29.ゴマダラチョウ Hestina japonica (C. & R.Felder,1862)
成虫の見られる時期:5~10月 食餌植物:エノキ、エゾエノキ
龍王山では5月ごろから成虫を見始めます。年に2~3回、卵→幼虫→蛹→成虫のサイクルを繰り返すが、初夏に現れる第1化は翅が白っぽい個体が見られます。


30.ヒメウラナミジャノメ.jpg
<ジャノメチョウ科>
30.ヒメウラナミジャノメ Ypthima argus Butler,1866
成虫の見られる時期:4~11月 食餌植物:イネ科の一種、ススキ、チガヤなど
小さく可愛らしいジャノメチョウです。普通種で、龍王山でもよく見られます。頂上にあがる道路の林縁や散策道の林縁、キャンプ場周辺のあちこちで見られます。


31.ジャノメチョウ.jpg
31.ジャノメチョウ Minois dryas (Scopoli,1763)
成虫の見られる時期:6~9月 食餌植物:ススキ、ヒカゲスゲなど
龍王山ではよく見られます。頂上にあがる道路や散策道を歩くと、脇の草むらから飛び出してくるような印象です。ジャノメチョウの仲間では大きなほうで、大きな翅をパタパタと動かして草の上を飛ぶ姿が印象的です。


32.コジャノメ.jpg
32.コジャノメ Mycalesis francisca (Stoll,[1708])
成虫の見られる時期:4~10月 食餌植物:ススキ、チヂミザサ、アシボソなど
東広島ではあまり見かける機会がなく、生息地は多くない印象があるが、龍王山周辺では比較的見かける機会があります。散策道の林縁でときには翅を広げるのを見ることもありますが、数は多くありません。


33.クロコノマチョウ.jpg
33.クロコノマチョウ Melanitis phedima (Cramer,1780)
成虫の見られる時期:6~翌5月 食餌植物:ジュズダマ、ススキ、ヨシなど
湿り気のある暗い林の周りで見かけ、あまり明るいところには出てきません。龍王山でも山の中の暗い湿った感じの場所にいます。飛んでも、いったんとまるとじっとしているため、知らずに近づいて驚かせてしまうことがよくあります。翅の模様が落ち葉に似ているので、地面にとまるとなかなか気づきにくいこともあります。成虫で越冬するため、春には越冬明けの翅の傷んだ個体を見かけます。


34.ミヤマセセリ.jpg
<セセリチョウ科>
34.ミヤマセセリ Erynnis montanus (Bremer,1861)
成虫の見られる時期:3~5月 食餌植物:アベマキ、クヌギ、コナラなど
春に一度だけ現れる“スプリングエフェメラル”の蝶です。龍王山でも、春、暖かい日差しのころ、散策道やキャンプ場の周辺で見かけることがあります。


35.ダイミョウセセリ.jpg
35.ダイミョウセセリ
成虫の見られる時期:4~9月 食餌植物:ヤマノイモなど
東広島市では、山の林縁部などでよく見られるセセリチョウで、龍王山でも頂上にあがる道路沿いの林の縁などでよく見られます。やや夕方、活発に飛びまわり、地面や葉の上などに翅を開いてとまる姿が印象的です。


36.ホソバセセリ.jpg
36.ホソバセセリ Isoteinon lamprospilus C. & R.Felder,1862
成虫の見られる時期:6~8月(年1回) 食餌植物:ススキ
7月中旬頃に羽化のピークがあるのか、この頃に集中してよく見かけます。龍王山では、頂上にあがる道路や散策道でアザミで吸蜜する姿をよく見かけます。


37.ヒメキマダラセセリ.jpg
37.ヒメキマダラセセリ Ochlodes ochraceus (Bremer,1861)
成虫の見られる時期:5~8月 食餌植物:ススキ、ヒメシバ、チヂミザサなど
龍王山では、山の林縁などで見かけます。敏捷に飛んでは、葉上などにとまって翅を開きます。セセリチョウではやや小ぶりで、名前の“ヒメ”の通り、可愛らしいチョウです。


38.イチモンジセセリ.jpg
38.イチモンジセセリ Parnaraa guttat (Bremer & Grey,1852)
成虫の見られる時期:4~11月 食餌植物:ススキ、イネ、エノコログサなど
セセリチョウの中では普通種で、龍王山でもよく見られます。名前のように、翅裏の白い斑点が4つほぼ一直線に並ぶのが特徴です。頂上にあがる道路や散策道でよく見かけます。

※この他にも、龍王山ではカラスアゲハ、ベニシジミ、コミスジ、アカタテハ、ミドリヒョウモン、コチャバネセセリ、チャバネセセリなどを見ていますが、これらは写真を撮っていないためここでは省略しました。

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