自然に親しみ、観て触れて学びながら、自然を守ろう

カイツブリの子育て

カイツブリの子育て

船越雄治

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カイツブリは、たいていの池や川で見かけるおなじみの水鳥です。しかし、巣作りからスタートする子育ては、人間、カラス、ヘビなどに見つからないような場所を選びます。したがって、写真撮影、ビデオ撮影とも極めて困難を伴います。私も途中であきらめるケースが多かったのですが、友人が知らせてくれたこのたびの巣は、理想的な状況にありました。

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平成21年7月5日のことです。友人から電話があり、その30分後にはすでに目指す目的の池に駆け付けていました。池をめぐる道路上に車を停めることができたのは幸いでした。巣までの距離は約50メートル、ヨシなどの障害物は一切なく、撮影者にとっては理想的な状況です。これまでにこのような状況の巣を見たことはありませんし、今後もあるとはとても思えませんでした。そこで私は、はやる気持ちを抑えながら、このカイツブリの撮影に全力投球することをひそかに決意し、2日に一度はその場所に通うという生活が始まりました。

抱卵中だった親カイツブリは、卵の上に乗ってじっとしているだけです。映像としては面白くありません。しかし、1時間に一度転卵のために立ち上がります。また時おり散歩する人が堤防を通りますが、この時は草を卵の上にかけて、親は大急ぎで巣から離れます。映像としては、この二つの行動が面白そうでした。親が動くとき、卵の数をカウントすることができます。卵は5個ありました。

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通い始めて3日目の7月7日、昨日までの親と違って異様に丸く太って見えました。双眼鏡で確認すると、親の羽の間からヒナ3羽の首が見えました。この日からカイツブリの両親は、もちろん撮影する私も大忙しとなりました。その後しばらくして、ヒナは4羽目、5羽目と誕生し、5個の卵は全部孵化しました。この頃になると、先に誕生したヒナ3羽は巣から出てきて、周りの水面で遊ぶようになりました。エサもエビや小魚ばかりでなく、時には殻付きのザリガニを親が与えるようになりました。時おり散歩する人がいると、親は2羽を巣の中に残して3羽のヒナを連れて沖へ避難します。こうして子育ては順調に進み、私も好天に恵まれて鮮明な画像を残すことができました。

かいつぶりの子育て3.jpg

しかし、7月10日、事態は一変します。この日は朝から台風並みの強風と豪雨が吹き荒れていました。カイツブリの親子が気にかかります。とりあえず、いつもの場所に車を停めたものの、強風にあおられて車ごと転落しそうです。でもここで引き返すわけにいきません。窓を開けた途端、カメラも腕もビショ濡れです。やむなくタオルでカメラを包み、レンズの雨滴はティシュペーパーでぬぐいながら撮影を開始しました。くもりがちのファインダー越しに見えたのは、羽を全開して5羽のヒナを必死に守る親の姿でした。強風が通過する度に、波が押し寄せて巣がひっくり返りそうになります。撮影している私もハラハラ、ドキドキの連続でしたが、なんとか撮影することができました。この日のシーンが、NHKの審査員の目にとまったということを後日知らされて、私も納得したものです。

かいつぶりの子育て4.jpg

嵐の去ったある日のこと、遅れて育ったヒナ3羽が泳げるようになると、この一家は巣を捨てて人目につかない池の端へ移ってしまい、私の3週間にわたる撮影も終わりました。その後8月初めに双眼鏡で確認すると、体色こそ親とは違うものの、大きさは親と見分けがつかぬまでに成長していました。しかし、幼鳥は3羽しかいません。池全体をチェックしてみるものの、他の2羽は見当たりませんでした。自分で飛んで他の池に移動できるほどの成長段階ではないので、死んだと考えざるをえません。あらためて自然の厳しさを思い知らされました。


時が流れ、カイツブリのことなどスッカリ忘れていた平成22年3月31日、NHK広島放送局より電話があり、「2009年度『アイ・ラブ・ビデオ』年間大賞」に決まったと知らされました。今号の会報の表紙写真は、ビデオ撮影の合間に超望遠レンズで撮った写真です。

画像の説明

NHK広島の「アイ・ラブ・ビデオ」を見ることがある。たまに見る番組だが、それでも船越さんの作品とは結構出会うような気がする。きっと常連さんであろう。グランプリ受賞おめでとうございます。
下はその受賞シーンのテレビ画面をパチリ! 土岡健太

かいつぶりの子育て5.jpg

東広島の自然(2011.3)No.42 掲載


私のビデオ投稿生活

船越雄治


1.はじめに

 ビデオ撮影を始めて15年になります。これはと思うものが撮れるとNHKに投稿していますが、運が良ければひと月に1~2回採用となり「アイ・ラブ・ビデオ」で放映してもらえます。時間は40秒程度です。編集はNHKがするので、出してほしいシーンが出なかったり、スクープ映像として自信満々で送ったもののNHKの意向に添わないとして門前払いをくらうなど悲喜こもごもの投稿生活を送っています。

 今日に至るまでの経過と今後の抱負などを綴りますが、当会から同好の後継者が誕生することを願っております。

2.写真熱中時代

 
 ごく普通の民間企業で、ごく普通の事務系サラリーマン生活を送った私ですが、趣味は写真でした。当初は一人で自己満足の写真を撮っていましたが。これでは進歩がないと写真のクラブに入りました。毎月の例会では先生や先輩にしごかれながら腕をみがきました。その甲斐あって難関で知られた全国コンテストで連続3回入選しました。しかし4回目以降が続きません。いわゆるスランプに陥ったのです。
楽しかるべき趣味ですが苦しみに変わったのです。ストレスゆえにサラリーマンとしての本業もおろそかになる始末です。

3.ビデオとの出会い

 スランプを克服して写真を続けるか、それとも写真をあきらめるか悩んでいた15年前のことです。たまたま遊びに行った親戚にビデオカメラ、しかも当時の最新、高級品が転がっていました。以前からビデオカメラに関心があった私は、早速見よう見真似で使ってみると今まで熱中してきた写真とは別の世界がありました。持ち主が言うには、スイッチやボタンが多すぎて使いこなせないとのこと。逆に私はメカが複雑であればある程、闘志がわいてくるタイプです。早速借用を申し出ると二つ返事でOKしてくれました。

 うれしくて、うれしくて「翌日からはどこに行くにもこのビデオカメラ片手です。しかしそのうち持主から「結婚式を撮影してくれ」と言われ、私は大いに慌てました。結婚式は3カ月後に迫っていたからです。超初心者の私にはいささか荷が重すぎます。とは言え最高級のビデオカメラを自分の持ち物の様に持ち歩いている手前、ことわることもできず承諾しました。翌日から分厚いマニュアル本とにらめっこの毎日です。

 結婚式当日は大急ぎで習得したビデオ撮影術に長年にわたって習得した写真の技術を加えて撮影し無事終了しました。持主は私の技術に一抹の不安を感じていたのか結婚式場の専属カメラマンにもビデオを頼んでいました。両方のビデオを較べて持主は言いました。「プロが撮ったビデオはワンパターンで観ている途中で飽きてしまった。それに較べてオジサンが撮ってくれたビデオは変化があるし、主役も脇役も全員が映っている。良い記念ができた。ありがとう。」と絶賛してくれました。

4.ビデオ熱中時代

 その頃、テレビ各局は競って素人投稿ビデオ番組を放映していました。気を良くした私は各局に投稿を開始しました。内容はいわゆるイベントものです。私の知りあいが主催するイベントは勿論、全く知らない人のイベントにまで押しかけて撮影と投稿を続けました。没になるケースもありましたが、採用されるとイベントの主催者も参加者も喜んでくれました。全く知り合いのない土地で暮らし始めた私ですが、徐々に名前が知られるようになりました。

 「これは地域おこしを助けるボランティア活動である」ともっともらしい大義名分をふりかざして自分に言いきかせて、土、日、祝日は終日家にいないケースが増えてゆきました。

 でもそんな生活に3年で終わりを告げることになります。ビデオカメラの普及とともに、私と同じような活動をする人が広島県中に増えたのです。イベントものを追う大勢のアマチュアカメラマンのうちの一人でしかなくなった私なので、放映してもらえる機会も希となったのです。それに較べストレスは増えるばかりです。テレビ局に採用してもらえる保証がないまま「ひょっとするとテレビで放映してもらえるかもしれないので撮影させてください」と断って撮影をさせてもらうのですが、撮影中も投稿後もプレッシャーの連続です。やがてイベントものから遠ざかってしまいました。

 次に目を向けたのがネイチュア・ビデオです。子供の頃は釣り狂とか昆虫少年とかあだ名され、高校時代は生物班に所属し、西条に来てからは当会に入会している私が行きつく先としては当然のなりゆきです。イベントものに較べて気長に構え、かつ即撮影に入る体制をとっておく必要があります。イベントものは事前に内容がわかっているのに較べて、ネイチュアものは、いつ何が起こるか予想がつかぬからです。それだけに良い瞬間をキャッチできると大満足です。それに知れば知る程、新たな世界が拓けてゆきます。生き物大好き人間の私にとってはストレスやプレッシャーと無縁の毎日です。

5.今後の抱負

 日頃から山歩きを欠かさぬ様にしていますが、もちろん目的はネイチュア・ビデオを撮るためです。しかし、この山歩きによって体力、気力、技術力の三力が無意識のうちに鍛えられます。鑑賞に耐える映像を撮るためには、三力が揃っている必要があります。

 最近は時間的にも精神的にも余裕が出てきたので、ビデオだけでなく写真も撮るように心掛けています。当会は今後、自然誌シリーズを次々と発刊する計画です。私も写真で参加します。皆さん、力を合わせてレベルの高い自然誌を創りましょう。

富士・はやぶさ ラスト・ラン.jpg
平成21年3月14日
寝台特急「富士・はやぶさ」 ラスト・ラン(広島駅)


● 事務局より
本号編集中、船越さんから嬉しい連絡をいただきました。
「NHK広島放送局の『わたしのベストショット』という投稿ビデオの番組で、さいわい、私の『カイツブリの子育て』が2009年度年間大賞を受賞しました」。おめでとうございます。

録画しながら見せていただきました。船越さんの大変な労作であるとともに、東広島市がこうした生き物の多様性をもった環境であるということを改めて知り、この環境をいつまでも保持していきたいと思います。
(土岡)

ザリガニ.jpg
平成21年7月16日 NHKにて放映
カイツブリの子育て」 鐘鋳原池(西条町吉行)
※オス親はメス親にザリガニの爪を与える


放映日タイトルジャンル備 考
1月8日泳ぐ鹿哺乳動物野犬に追われて池に逃げ込んだ鹿
1月22日ミコアイサ野鳥パンダガモなるニックネームをもつ優美なカモ
2月5日バブルため池氷の下で動めく気泡の不思議な姿
2月19日アメリカヒドリ野鳥希に見かけるカモ
3月19日サヨウナラ・寝台特急イベント富士・はやぶさのラスト・ラン
4月2日タムシバ樹木山全体を埋めつくす白い花
4月16日鯉の集団産卵黒瀬川
4月30日コチドリ野鳥メスを巡って二羽のオスの争い
5月21日ダイシャクシギ野鳥カニを食べる姿
6月18日トキソウ野草大群落
7月2日ケリ野鳥抱卵からヒナの誕生まで
7月16日カイツブリ野鳥
8月6日ダイサギ野鳥首をゆらしながら昆虫を上手に捕食
8月20日カブトムシ昆虫他の昆虫を押しのけて食事
9月3日ダイサギ野鳥集団で行水をする
9月17日ウチワヤンマ昆虫羽がボロボロ
10月8日スジエビエビ陸上を散歩
10月22日ナニワトンボ昆虫青い赤トンボ
11月12日アオサギ野鳥50cmのブラックバスをやっと呑みこむ

東広島の自然(2010.3)No.41 掲載

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