自然に親しみ、観て触れて学びながら、自然を守ろう

レポート~特集「東広島の自然誌」刊行に向けて

東広島の自然誌

特集「東広島の自然誌」刊行に向けて
           会長 沖村 雄二

―この特集は,広島大学が行う社会連携の各種事業の支援と,併せて大学のある都市としてふさわしいまちづくりに協力することを目的として設立された,広島大学マスターズ設立総会(平成18年12月2日)に際して,東広島市自然研究会の活動を紹介するために,全会報の内容を整理した結果です。整理作業を終わって,あらためて本会の活動の意義を再認識しました。設立総会に出席された方々,そしてマスターズの主要メンバーである名誉教授の方々からは,多くのご意見をいただきました。特集に先立って厚く御礼申し上げます。―

東広島市自然研究会は, 平成3(1991)年2月16日に,讃岐照夫東広島市市長(当時)を迎えて発会式が行われ,4月には会報第1号が発刊されております。このころから環境問題が大きく取り上げられるようになった一方で,広島大学や近畿大学の移転,広島中央テクノポリスの建設などにともなって環境整備が急がれた時期です。
発会式における市長の祝辞には,「自然を大切にした都市づくりが課題で,自然の保護と活用について真剣に考えてもらうことは素晴らしく,今後も,緑に囲まれた先端技術のまちづくりをすすめたい」と述べられたことが,新聞で報じられています。また,設立に尽力された初代の会長,新川英明氏(広島県立広島女子大学名誉教授)は,「自然保護を考える-黒瀬川の研究から」と題した,東広島市の自然環境整備の中心になる黒瀬川をとりあげて,まず足元の自然を学ぶことの大切さを主張されています。
発会にともなって制定された会則には,「東広島市及びその周辺の自然を科学的に調査・研究し,生態系を正しく把握するとともに,人間と自然の調和のとれた学園都市の実現に資することを目的とする」と謳われています。そして,目的を達成するための事業のひとつに,「東広島市の自然」の編集・発行も謳われています。しかし,そのための具体的な動向については,
16年にわたる会の歴史を記録してきた37号におよぶ会報からは,残念ながらほとんど読み取れません。会の発足時から謳われている“自然誌”の発刊がなぜ実現しないのか,その理由を探るべく,会報の内容について項目別に整理してみました。
その結果として,いままでの会報には,新しい視点からの補充・補正が必要なものが少なくありませんが,東広島市とその周辺地域の自然に関連するシンポジウム,自然観察会,展示会,研究会,調査・研究にくわえ,賀茂台地の今むかしと題した動・植物の観察記録など,きわめて貴重な記録が数多く載せられています。「東広島の自然誌」発刊に向けた取り組みに,曙光が見えてきたことは間違いありません。
東広島市には,自然誌(史)を総合的に学習できる施設がありません。もちろん博物館はありません。このほど広島大学に総合博物館ができて,日野化石コレクションも一般公開され,『環境と人間との共生』をメインテーマにした展示がはじまりましたが,東広島の自然を勉強する施設として,さらには,小・中学校の教科書に沿った学習や“総合学習”の施設として,これからが期待されます。身近な自然を知るための手がかりとして,「東広島の自然誌」をまとめる作業にお力を貸してくださることを会員はもちろん,この特集を読まれた方々のご意見・ご感想をお願いしてやみません。
以下,会報の内容を整理した結果の一部ですが,整理項目その他,扱われている内容が極めて多様なものですから,必ずしも適切ではないかもしれません。自然誌としてまとめるためのご意見をお寄せください。
( )内は掲載されている会報の号・頁

1 シンポジウム
(a)「土について」(3.2-6)
§土(西条湖成層)が教えてくれるもの
§東広島の農地土壌
§焼物から見た賀茂台地の粘土

(b)「水について」(6.2-4)
§地下水の量,水質,水処理と利用
§生物の棲家としての「ため池」
§水棲生物からみた黒瀬川の水質
§水道水のできるまで

(c)「松について」(7.2-4)
§松の役割・マツクイムシの被害と対策
§松くい虫による被害状況と対策
(d)「ホタルについて」(10.2-5)

(e)「郷土の土に学ぶ-Ⅱ」(12.2-4)
§西条盆地・西条湖成層
§土と霜柱・凍土

(f)「黒瀬川フォーラム」(12.10-12)
みんなで守ろう黒瀬川・黒瀬川(もと西条川)
黒瀬川の魚たち・地域の自然を大切にしよう

(g)「黒瀬川の自然」(15.2-4)
‘94まなびメッセ・東広島に参加・展示

(h)「郷土の土に学ぶ-Ⅲ」(15.4-9)
§真砂
§道路・土地造成
§西条の酒造用水
§賀茂台地の地質・地形・気候と植生

(i)「黒瀬川=生活環境としての黒瀬川を探る=」(20.4-7)
§1940~50年代の自然環境
-蓮花寺橋付近を中心にして-
§自然の中で過ごした日々
§環境教育実践校として
§水辺の問題点把握と整備計画

(j)「環境保全を探る-ため池の現状と課題」(22.2-9)
§ため池の現状と保存に向けての課題
§農業と用水
§西条盆地のため池の生物

(k)[里山の復活を求めて](25.13-14)
広島大学のキャンパスに里山作り・吉川財産区 の念仏の森・東広島ルーラルアメニティクラブの竹林対策・龍王山憩いの森,森林ルネサンス

(l)「未来に残す1000年の森づくり(龍王山)(33.41-46)
(基調講演)里山と水源の森:その仕組み

2 (自然)観察会
(a)「憩いの森・龍王山」(2.4)
山陽線付近から龍王山にいたる道で観察された開花植物のリストがつけられている。

(b)「湿原を尋ねる」(6.4-12)
グリーンスポーツセンターの渓流に沿って, 観察した植物(リスト)と話題。

(c)「グリーンスポーツセンター渓流」植物観察(10.5-6:22.17)

(d)「鏡山公園」(9.3-7) 観察された植物のリスト・進化,分類,生態, 群落の遷移などの記録。

(e)「岩石・土の観察‐吾妻子の滝」(10.5-6) 滝の成因・河原の石など

(f)「黒瀬川」(13.4-6) 採取し,観察した動物のリスト・生態。

(g)「三永水源地の野鳥と植物」(14.2-5)観察された生物のリストと生態メモ

(h)「並滝寺池周辺」(21.9-11) 観察された植物のリストと特徴

(i)「七つ池とその周辺」(22.16)七つ池の過去・現在と座談会

(j)「松子山‐江戸時代の山陽道を中心に渓流・ため池・湿原の植生変化」

(k)「里山の自然調べ‐頭崎山城址」(23.8-11) 多様な動・植物観察メモ

(l)「夏のため池‐高屋町小谷,西の池,東の池」 (24.2-3)入野川源流域の湿地植物

(m)「曾場が城山麓小倉林道-植物観察」(24.8-12)小倉林道植物目録

(n)「水鳥-カモなぜオスが美しいのだろう」(24.13-14)

(o)「福成寺の巨樹を中心に-グリーンスポーツセンター渓流」(25.3-4)巨樹の宿命

(p)[西条盆地とアカマツ林](25.10)

(q)「杉森八幡神社(高屋杵原)の自然」(25.14-15)社叢の植物目録

(r)「虚空蔵山登山と植物観察」(26.11-12,29.14-15)

(s)「鷹の巣山自然観察」(28.14-15) 夏の植生とキノコの特徴など

(t)「ため池をみて歩く会」(28.15-17)外来魚,水生植物の観察

(u)「白鳥山と湿原の夏」(29.17-18)

(v)「郷田親子自然観察会」(31.17-18) 食虫植物,ハッチョウトンボなどの挿絵

(w)「秋の自然観察‐志和堀」(33.35)水辺の植物リスト

(x)「海浜の生物と白亜紀の地層・岩石・化石」 (37.12-18)
市町村合併によって,海の自然についての本格的な観察会が実現。73名が参加〔38号参照〕。

(y)「白亜紀の地層観察と化石」(37.27-28)
市の天然記念物“苦の辻の魚類化石”産地を見学し,産出した魚類化石を観察。

* 参加者の感想文だけが載せられている観察会は,
一部省略しております。

3 講演会(東広島の自然に深くかかわる内容の講演 が多く,次にまとめる調査・研究の相補関係を考えて,別項目として整理)
(a)「東広島市のため池・湿原の植物と昆虫」(2.2-4)
§西条町の蝶と蜻蛉
西条町域の蝶・蜻蛉相の特徴についての解説
西条町には77種の蝶・70種のトンボ

§東広島市のため池と湿原の植物
保護上重要な植物リストにあげられている 東広島市の植物のほとんどは水生・湿生。会のシンボルマークはサイジョウコウホネ。

(b)「ため池の環境保全を考える」(22.12-13)
残置溜池の環境保全について,9課題と10対策をあげて講演

(c)「里山作りへの市民参加と地域資源活用型まち づくり」(26.11-13)
エコミュージアムとまちづくりについて,図をつかって分かりやすく解説されている。

(d)「西条層とため池堆積物」(29.15-17)
西条盆地の地形と地質の概要,地層の解析など,図をつかっての解説に多くの質問。

* 講演者による寄稿がなくて,聴講者の感想文が主体の講演,および東広島の自然との関連が薄い内容の講演は,省略しております。

4 調査・研究(関連分野を{ }で表しています。動:動物,植:植物,地:地質,化:化学,物:物理の意味)

(a)「西条湖成層の露頭」(3.表紙){地}西条層の地質学的意味が紹介されている。

(b)「賀茂台地と誰故草」(寄稿:3.9){植}
エヒメアヤメについて,その文化的な意味が詳しく記述されている。

(c)「西条盆地のため池の変貌(1)」(5.10-12){化}
八本松駅北方,約500m,人工的に破壊されたため池での調査記録(電気伝導度,透視度,総チッソ・総リンの変化・グラフ)をもとに,環境保全の重要性が指摘されている。

(d)「西条盆地のため池の変貌(2)」(6.7-10){化}
水生植物の変化を基礎に,ため池の富栄養化の原因を探り,黒瀬川流域が生活廃水対策重点地域に指定された理由に踏み込んで,対策が急がれると指摘。

(e)「素晴らしいミニ渓流との出会い」(6.10-12){地}
広島県の3段侵食面と西条盆地の地形を分析(三永渓流と山地),構成岩石と西条湖成層,山頂付近の平坦地について記述し,郷土の自然を知る意味を論じている。

(f)「ネザサの開花とその種実」(7.7-8){植}
20年ぶりに咲いたネザサについて詳しく観察,種実の発芽力,穀実の栄養成分分析結果など,踏み込んだ自然観察が紹介されている。

(g)「コシアブラ(一名金漆の木)の過去・現在・未来」(7.9-10){植}
コシアブラから想像される東広島の未来の森林が,落葉広葉樹林になるのではとの推測。

(h)「西条盆地のため池の変貌(Ⅲ)」(7.10-11){環境}
土地開発によるため池の荒廃をもとに,西条地域の自然環境の悪化を憂えた警鐘の論説。

(i)「身近にみられる生態系の変化」(7.11-12){環境}
放牧地の牛道,大規模林道,松枯れを例に,環境問題を考える資料提示。

(j)「セイタカアワダチソウの光と影」(7.13-14){植}
セイタカアワダチソウの繁殖の猛威がもたらす功罪について記述。

(k)「西条盆地のため池の変貌(4)」(8.3-5){環境}
水草の盛衰をもとにため池の存在意義に触れ,環境問題についての議論を提起。

(l)「黒瀬川に見られる砂の造形」(8.5-7){地}
黒瀬川で観察される漣痕(リップル),砂州,砂漣,砂堆などの細かい観察から,西条層の解析を試みている。

(m)「カワニナの観察」(8.7-10:9.8-10:11.7-8){動}
カワニナの形態,幼貝,殻の侵食と,3回にわたる観察結果を報告し,自然観察の意義について述べている。

(n)「わが家の野鳥(冬鳥)観察」(8.10-13){動}
野鳥12種について,その生態が細かく観察されている。

(o)「身を守る動物たちの空間感覚」(8.13-14: 9.10-11){動}
鳥類の逃走距離感覚という,特異な観察には注目すべきである。

(p)「ミツマタの観察と保護」(9.14-15){植}
ミツマタの樹形,生育環境,花の構造,花粉を託すの4項目,自然観察の典型例であろう。

(q)「秋の木の実,草の実」(11.10-12:11.12-14){植・動}
鳥の餌になる61種の植物について,大きさや色,鳥の嗜好性などについての観察記録。

(r)「広島県と東広島市のラン科植物」(12.15-16){植}
日本には200種といわれるラン科植物。広島県に53種,東広島市に21種。確認された種のリスト。

(s)「黒瀬川流水の電気伝導度の観察」{物}
生活廃水や工場廃水など,水質の総合判定指標となる電気伝導度が,下流ほど悪くなる実態を数字でしめした,注目される研究。

(t)「今年(1994・平成6)の夏の暑さと雨不足」 (14.9-12){気象}
異常気象の典型といえる年の気象解析。自然環境の変化を考える重要な資料である。

(u)「武士の滝周辺の地形」(15.14-16){地}
古川川,戸石川の合流する地域の地形解析から,湖説に疑問をもって,流路の変化を追跡。

(v)「黒瀬川の滝について」(17.3-8){地}
黒瀬川流域の5滝(清滝・武士の滝・吾妻子の滝・瀬戸滝・二級峡)を記載して,滝と自然環境,地形変化について論じている。

(w)「写真で見る田池周辺地域の変遷-西条第一区画整理事業(1986-1994){環境}
現在の西条中央付近の,土地区画整理事業による大変革の様子を15枚の写真で如実に実証

(x)「ギフチョウとカンアオイ」(18.2-5){動}
県内のギフチョウとカンアオイの分布を示し,自然観察の重要性を説いている。

(y)「丘陵の池でみたこと」 (18.5-8){動・植}
八本松,原,寺家付近のため池の自然観察。里山の変化を知る貴重な資料。

(z)「江戸時代のけものと水中生物」(18.9-10){動}
国郡志書上帖(1819)に記録されている“けもの”20種,水中生物33種が表で示され,動物誌記述の重要な資料である。

(ア)「ため池観察会,調査報告」(21.2-6){池}
半尾川,中川流域の14のため池について,水色・水温・透視度・電気伝導度,植生について調査した記録。

(イ)「竹林の里山化を目指して」(21.11-14){植}
竹による里山の崩壊の実態を調べ,元の里山化への取り組みの方法について記述。

(ウ)「スクミリンゴガイー西条での観察」(25.16-19){動}
いわゆるジャンボタニシの生態についての詳しい観察記録。

(エ)「西条盆地ため池の走磁性バクテリア」(26.14-15){動}
磁性鉱物をつくるバクテリアが奥田大池と刈又池で発見され環境との関連を追跡。

(オ)「冬のため池水質の観察から」(27.9-11){池}
鏡山とががら山周辺地域の11のため池において,電気伝導度,透視度,総リン・チッソ濃度を測定して,市街化の影響を推論。

(カ)「エコミュージアムとまちづくり」(27.15-17){環境}
エコミュージアムの意味を解説して,自然環境・社会環境を探求し活動するグループの共同活動を呼びかけている。

(キ)「芸予地震と東広島市内の被害」(29.1-2: 30.11-13){地}
2001.4.19の芸予地震について,市内被害状況とその特性を調査し,被害が下三永から吉川につらなる幅約1kmの東西方向で著しく,地下に断層がある可能性を指摘している。

(ク)「東広島市周辺の植物相の遷移-竹林の驚異」 (30.1-2){環境・植}
マツ林の破壊につぐ活葉樹林の発達,そして竹林化の猛威は,東広島の植生を変えてしまった様相を解析。

(ケ)「溜池のミクロの世界-ミジンコの生態と生活史」(31.3-8){動}
溜池全体の生態系を支えている微生物の世界を詳細に観察,調査,研究した記録である

(コ)「大澤田池の野鳥(冬編)」(32.23-26){動}
冬の大澤田池を訪れる15種の鳥について,写真をつけて解説。

(サ)「東広島市周辺の主なヘビ類と両生類について」 (33.7-13){動}
6種のヘビについて解説,両生類13種について記載。どちらかといえば,きらわれものの動物の仲間だが,身近にいる生き物だけに重要な記録。

(シ)「西条層の研究史-湖ではなかった」(35.1-6){地}
1911~2004年の間に出された,西条層に関連する34論文について概要を説明し,湖成層と考えられていた西条層が,河川成の地層であると考えなくてはならない証拠について解説した。“古黒瀬川”は網状河川。

(ス)「トゲカイエビ雑記」(36.8-10){動}
身近な田圃に棲む生きている化石とも言うべき甲殻類の一種。安芸津町で発見されている「化石カイエビ」についても言及して,生命の不思議にせまっている。

(セ)「オオマリコケムシ」(37.31-32){動}
広島県では初めて見つかったため池に棲む異様 な形の生物。どちらかというと汚れた水に棲み,大量発生すれば排水管が詰る可能性もある。中国新聞で紹介され,東京のある研究所からも問い合わせがあった。

5 賀茂台地の今むかし

18回にわたって連載・記述された,身近に生きている動・植物。生態や私たちの生活との関連にも踏み込んだ,興味をそそる記録である。

① ホウネンエビ(9.13-14){動}
② ドジョウ(10.10-11){動}
③ タガメ(11.10){動}
④ マルタニシ(12.16-17){動}
⑤ メダカ・カダヤシ(13.16){動}
⑥ モンシロチョウ(14.14-15){動}
⑦ オヤニラミ(15.22-23){動}
⑧ セイタカアワダチソウ(17.16){植}
⑨ アリジゴク・ウスバカゲロウ(18.11){動}
⑩ ヒキガエル(19.13-14){動}
⑪ ヒガンバナ(20.8){植}
⑫ イタチ(21.15-16){動}
⑬ ヘイケボタル(20.18-19){動}
⑭ マダラヒゲナガカミキリ(23.19-20){動}
⑮ ヒトノミ(24.20-21){動}
⑯ メダカ(を見つけた)(25.21){動}
⑰ 黒瀬川の魚が変わった(26.17-18){動}
⑱ マシジミ(27.23-24){動}

東広島の自然(2006.12)No.38に掲載

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